練習メニューのライブラリでは、UT2 から AN までの強度の帯、水上の技術ドリル、ウエイト、リカバリーと、練習の部品をひととおり扱ってきました。 部品がそろうと、次の問いは並べ方です。どの日に何を置くか。 どの季節に何を厚くするか。この記事は、その設計図にあたります。
位置づけは基礎レベルです。強度の帯(UT2・UT1・AT・TR・AN)が 読めることを前提にするので、まだの場合は先に 強度ゾーンの読み方 をどうぞ。 なお、このページ自体に決まった練習時間はありません。メニューを並べるための 考え方の記事だからです。読み物としての目安は、上のメタ行のとおりです。
扱うのは「何を、いつやるか」までです。なぜ低強度の量が土台になるのか、 体の中で何が起きているのかは エネルギー供給と強度区分 にゆずります。
原則 — 楽な日と、きつい日を分ける
出発点は競技の性質です。英国代表(GB Rowing Team)のコーチによる公開解説は、 2000mレースではエネルギーのおよそ70〜80%を有酸素系が受け持つ、という複数の研究の 典型値を挙げています。そして有酸素の土台になる体の適応は、発達に年単位を要する。 だからエリートのプログラムは、有酸素のトレーニングを最優先に組まれています。
実際の配分も公開されています。同じ解説は、持久系競技のエリート選手が、 ほとんどの競技でトレーニングの80%超を低強度で行っている、 という研究の整理を紹介しています。英国代表が公開している実例プログラムでも、 この形は崩れません。
この配分を一週間の形に直すと、週の大半は会話できる強さの楽な日、きつい日は少数で、その日ははっきりきつく、 となります。楽な日を少し上げて、きつい日を少し緩めて、全部を中間の強さでならしてしまうのが、 いちばん避けたい形です。配分の型の名前(ポーラライズド型・ピラミッド型)や、 「80%」を何で数えるかという注意は 強度ゾーンの読み方 の後半で触れました。ここからは、それを週とシーズンに落としていきます。
週の設計で最初に守るのは、いちばんきつい日ではなく、いちばん楽な日です。
週の骨組み — 休む日から決める
白紙の一週間にメニューを埋めていく手順は、公開されている実例からそのまま学べます。 共通するのは、次の5つです。
- 休む日を、先に置く英国代表の実例プログラムは、通常週も強化週も週1日を完全オフか 積極的回復(ストレッチ・散歩など)に充てています。解説には 「丸1日休む効果を完全に得るために、日曜に置くプログラムもある」とあります。 一方で、2009年のFISA(現World Rowing)のクラブ選手向けプログラムのように、 休養日の無い週構成の実例も存在します。初心者向けの公開プランは 週1日以上の休みを前提にするものが多く、まず1日、動かない日を決めるのが 実用的な出発点です。休み方の中身は リカバリー にあります。
- きつい日の翌日は、軽く漕ぐ日にする英国代表の実例には、強めの練習の翌朝を「落ち着いた漕ぎで、技術テーマを リセットする」時間に充てる週が載っています。軽い日は、技術の日として 使えます。テーマ選びは 水上の技術ドリル をどうぞ。
- 筋力トレーニングは、分散させて置く英国代表の配置原則は3つ。週の中で分散させて互いの回復を確保する。 持久系の高強度セッションの直後には置かない。下半身の日は、 いちばん元気な週の頭に置く。種目と負荷は ウエイトトレーニング にあります。
始める回数の目安も、公開されています。初心者向けプランの開始点は、思ったより少なめです。
量を増やしたくなったときの順番も、資料がそろって同じ方向を指しています。先に足すのは低強度です。英国代表の増量週の実例は、 強度セッションと筋力セッションをそのままに、持久系の練習だけを追加しています。 RP3のブログが目安として示す順番も、まず低強度の時間を5〜10%足し、 次にインターバルの本数、強度を上げるのは最後。どの数字も週10%以内の増加に とどめよ、とあります。メーカーのブログの目安値なので幅を持って読むべきですが、 「量が先、強度は後」という順番そのものは、初心者プランの設計とも一致します。
現実の部活には、制約があります。たとえば週6日動けて、水上に出られるのは週末だけ、 という部なら、並べ方の一例はこうなります。休みを月曜に置く。きつい日は、 艇で追い込むなら土日のどちらか一方、エルゴメーター(ローイングマシン)で 追い込むなら平日の真ん中に1回。きつい日の前後は低強度と技術の日ではさむ。 これはあくまで一例で、正解は艇庫と学校の事情ごとに違います。 骨組みだけは守ります。休みが週に1日以上あり、きつい日が孤立していて、 残りが会話できる強さで埋まっていれば、曜日の置き方は自由に動かせます。
シーズンの流れ — 冬に量、春から強度
週の次は、一年です。FISA(現World Rowing)が公開しているクラブ・個人向けの 年間プログラム(2009年)は、シーズンをおよそ6つの期に分けています。 秋から冬(およそ10〜2月)は準備期で、最大筋力と全般的な持久力をつくる。 早春(およそ3〜4月)は競技の準備に入り、専門的な持久力と技術へ。 初夏から夏(およそ5〜9月)が競技期で、選手権に向けて仕上げる。 そのあとに積極的回復の期間を置く。月の区切りは文書内でも表記に揺れがあるため、 厳密な境界というより流れとして読んでください。
注意がひとつ。この暦は北半球でも欧州のものです。日本の大会カレンダーに そのまま重ねることはできません。持ち帰るのは、準備、強化、レース、回復という順番の構造です。
冬に量を積む理由は、実例からも読み取れます。英国代表の冬の合宿は主に陸上 (エルゴなど)で行われ、春から夏に水上へ移行します。強度配分 (トレーニング強度の割り振り。TID)で見ると、冬と合宿は典型的にピラミッド型 (低強度が最も多く、強度が上がるほど少なくなる配分)、夏のレースシーズンは ポーラライズド型(低強度と高強度に二極化させ、中強度をごく少なくする配分)。 レースが近づくと中強度を削る理由を、解説は「この時期は中強度の疲労コストが 生理学的な利益を上回る。低強度はむしろ高強度からの回復を高める」と説明しています。 なぜ低強度の量が冬の土台をつくるのか、体の側の説明は エネルギー供給と強度区分 に、 冬の具体的な組み方は 冬季トレーニング にあります。
もうひとつ、年間の設計で大事なのは量の波です。 体力は、これまでを超えるストレスをかけ、回復して、新しい水準に適応する、 という繰り返しで伸びます。だからトレーニング量は一定にせず、 増やす時期と抜く時期を計画します。英国代表の解説には「中程度のトレーニングでも、 試験のような生活ストレスの高い時期と重なれば、選手には高い負荷として働く」 という指摘もあります。試験週やイベントの週は、最初から軽い週として 設計に組み込んでしまうほうが現実的です。
レースの直前には、テーパー(レース前に量を減らして調子を上げる調整)が入ります。 FISAのプログラムのレース週は、週明けを軽い漕ぎにあて、週の半ばに短い レースペースの刺激を入れ、直前の2〜3日は量を落として、速さを自由に変えて遊ばせる 漕ぎ(ファルトレク)でつなぎます。英国代表選手のエリー・ピゴットも、自身の解説で 「テーパーは量を減らして強度を上げること。長い一定ペースの漕ぎを減らし、 レースに特化したセッションを増やす」と述べています。 レースペース練習の中身は レースペース練習 へ。
テストから逆算する
設計図には、締め切りがあると締まります。公開されている2000m対策プランに 共通する構造は単純で、最初に基準をつくり、期間の最後にもう一度測る、 というものです。Concept2 の2000mプラン(8週版・12週版)は、初日に2000mの タイムトライアル(単独の計測漕)を置きます。速く入りすぎず、後半でペースを 上げることを狙って漕ぎ、タイムを記録する。そこから週3回+任意の4回目という リズムで積み、最終週に再び2000mを漕いで上達を確かめます。
途中の管理は、感覚まかせにしません。同プランは毎回のワークアウトで 500mあたりの平均ペースを記録させ、次回の目標に使わせます。ルールは2つだけ。 前週と同じ内容なら、ペースを上げられるか試す。本数が増えた週なら、 同じペースの維持を狙う。ペースとレートの読み方は エルゴのレート管理入門 に、 タイムから500mあたりの平均やワット数を出すには エルゴスコア換算 が使えます。
テスト当日の配分も、プランは具体的です。有効な戦略は、全区間一定ペースか、 ネガティブスプリット(目標平均より1〜2秒遅いペースで入り、目標平均より速く終える)。 序盤に突っ込みすぎる失敗は「そのときはとても楽に感じる」から起きる、 と警告されています。当日の入り方と区間ごとの組み立ては 2000m・1000m測定 — ペース配分と、その根拠 でくわしく扱っています。
レベル別の入り口も用意されています。British Rowing の公開プランは、 いまの週あたりの運動回数で初心者・中級・上級を選ばせる作りで、 初心者版は最初の2週間を低強度のまま時間を延ばすことに使い、中強度の導入は第3週、 高強度は第6週まで待ちます。順番は、量と一貫性が先、強度は最後。 「週の骨組み」で見た原則と、同じ形がここにも現れます。
注意点 — 設計は、楽な側から崩れる
週とシーズンの設計が崩れるとき、先に壊れるのはたいてい強度の下側、 つまり楽な日のほうです。崩れ方には、名前をつけられるくらい決まった型があります。
設計図は、季節と予定に合わせて描き直すものです。試験週が来れば軽くし、 レースが近づけば調整し、冬が来ればまた量に戻します。骨組みさえ守られていれば、 中身の入れ替えは自由です。まずは今週のカレンダーに、休む日ときつい日の 印をつけるところから始めてみてください。
