こぎだし

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ウエイトトレーニング — 漕ぎのための重り

ウエイトルームでの一時間を、レースのための時間に変える鍵は、挙げた重さではありません。何を、どの順で組むか、です。重いものを挙げるためではなく、水を長く支えるために——今日の一回を、その考え方で組み立てます。

読了目安7分レベル基礎公開日2026.07.15
静かなウエイトルームの隅。床に置かれた重量プレート付きのバーベルと、奥のスクワットラック。ラックには一本のローイングのオールが立てかけられている。

ローイングは持久系の競技なのに、なぜウエイトトレーニング (おもりを使った筋力トレーニング)に時間を割くのか。答えを一言でいえば、一本の漕ぎで水に伝えられる力の上限を上げ、それをレースの終わりまで 支え続けるためです。狙いは、ジムで挙げる最大重量の数字ではありません。 水を長く支えるために挙げる。この一行が、今日の組み立てを決めます。

この記事は基礎レベルの位置づけです。ある程度漕いできて、 陸での筋力づくりを「段取り」として組みたい人に向けています。扱うのは処方です。今日ジムで、何を、どの順で、どう組むか。 なぜ筋力が艇速につながるのかという理屈は 筋力とパワーのトレーニング入門に、 腰を守る体の話は 腰痛の予防にゆずります。ここでは同じことを繰り返さず、「一回のセッションの組み方」に徹します。

目的 — 挙げるためではなく、支えるために

レースは、数分のあいだ同じ強さの一本を繰り返す競技です。だから、 筋力トレーニングで上げたいのは二つ。ひとつは、一本に込められる力の天井。もうひとつは、その力を崩れずに繰り返せる力です。World Rowing(国際ボート連盟)が公開している クラブ向けの練習プログラムでも、鍛える目標として「最大筋力」と並んで 「筋持久力(力を出し続ける能力)」が挙げられています。

だから、このメニューのゴールは「重い一発を挙げられること」ではありません。正しい形のまま、必要な力を、最後まで支え続けられることです。 筋力の三つの性質(最大筋力・パワー・筋持久力)のうち、漕ぎで比重が大きいのは どれか。その整理は 筋力とパワーのトレーニング入門にあります。この記事では、その目的をどう一回の練習に落とすかを見ていきます。

所要時間 — 挙げている時間は、意外と短い

一回の目安は45〜90分。ただし、その中で実際にバーを挙げている 時間は、思うより短いものです。大半は、ていねいなウォームアップ、種目と種目の あいだの休息、そして最後の流しで占められます。急いで詰め込む練習ではありません。

1回の所要時間
45–90
この時間には、体を温めるウォームアップ、種目間の休息、軽い流しが含まれます。実際に負荷を挙げている時間はその一部です。種目数・セット数・休息の取り方で前後し、指導者の計画やジムの混み具合でも変わります。あくまで目安です。

時間の長さより大事なのは、あとで見る順番です。 同じ45分でも、何を先にやるかで、得られるものと怪我のしやすさが変わります。

強度 — 心拍計は、ここでは外す

エルゴメーター(ローイングマシン)や水上で使う強度の物差し(UT2 から AN までの 心拍やレートのゾーン)は、ウエイトルームには持ち込めません。 スクワットの重さを心拍で決める人はいませんし、決めるべきでもありません。あの ゾーンの体系は水の上のためのもので、その読み方は 強度ゾーンの読み方にまとめてあります。

では、ウエイトの「強さ」を何で測るのか。頼るのは、フォームが崩れる手前か どうかです。動作の速さを自分で制御できていて、狙った形のまま動き切れる 範囲。そこが、その日のその種目の上限です。限界まで振り絞って形が崩れる一本は、 強さではなく、怪我のもとを増やしているだけです。カタログ上、この練習は 中くらいの強度に置いていますが、それは「全力で追い込む日ではない」という意味だと 考えてください。

具体的な重量やレップ(1回の反復)の数を、この記事では断定しません。ACSM (米国スポーツ医学会)の公開しているガイドラインも、負荷・回数・セット数はその人の経験・目的・回復力に応じて個別に決めるもので、 誰にでも当てはまる一つの正解はない、という立場です。数字は、あなたの形を 見られる指導者と一緒に決めてください。この記事が渡せるのは、その数字を乗せる器(順番と考え方)までです。

実施方法 — 順番が、効果を決める

一回のセッションは、次の順で組みます。この順番には、はっきりした理由があります。 ACSM の公開ガイドラインは、種目の並べ方について「大きな筋群を小さな筋群より先に、複数の関節を使う種目を単関節の種目より先に、 強度の高い種目を低い種目より先に」という原則を示しています。理由は単純で、 疲れる前の、いちばん形が保てる状態で、いちばん難しく・重い仕事を片づけるためです。

  1. 体を温め、空のバーで動きを通す
    冷えた体、固まった股関節のまま重い一本に入らないこと。まず心拍と体温を 上げ、空のバーや軽い負荷で、その日やる動きの形をなぞります。World Rowing の 資料も、ウエイトは慎重に、良い挙げ方を覚える時間を惜しまないこと、と述べています。 漕ぎの姿勢で可動域を確かめる短い準備は モビリティに。
  2. 全身を使う多関節種目を、いちばん元気なうちに
    複数の関節を同時に使う種目(しゃがんで立つ、床から引く、押す・引くの大きな動き)を、疲れていない最初に置きます。これがいちばん技術を要し、いちばん力の天井を押し上げる仕事だからです。ここで形が崩れ始めたら、その種目はその日はそこまでです。
  3. 補助の単関節種目は、そのあとで
    一つの関節だけを動かす補助種目や、細部を補う種目は、多関節の主役を終えてから。順番を逆にすると、補助種目で先に疲れて、いちばん大事な種目を良い形で挙げられなくなります。
  4. 体幹は「動かされない力」として締めに
    脚が出した力を、腰を折らずに上体へ伝える土台が体幹です。動かす力というより、崩れない力として最後に整えます。どんな動きの分類で考えるか、 腰をどう守るかは 筋力とパワーのトレーニング入門 腰痛の予防にゆずります。
  5. 軽く流して終え、記録は「重量」でなく「形」を残す
    最後は軽く動いてこわばりを取ります。そして、その日の記録に残すのは挙げた重さの数字ではなく、「狙った形のまま最後まで動けたか」。この一項目を残しておくと、次に負荷を足すか据え置くかの判断がぶれません。

負荷は、形が保てる範囲で、少しずつ足していきます。ACSM の ガイドラインも、設計の中心に置いているのは「漸進性(少しずつ増やすこと)」で、 飛び級の手順はどこにも書かれていません。増やした日に形が崩れたら、前の重さに戻す。 戻すことは後退ではなく、設計の一部です。重さを足すか迷ったときのたった一つの基準は 筋力とパワーのトレーニング入門にまとめてあるので、判断に迷ったらそちらへ。

重さは、正しい形で動けた範囲の、いちばん外側にしか置けません。形が先で、重さは後です。

注意点 — 負荷より先に、守るものがある

温まる前に、重い一本を打たない。この練習は陸で最も高い負荷を扱います。準備を省くと、伸びる前に痛めます。 まず動きを通してから、負荷へ進んでください。

いちばん先に無理が出るのは、腰です。止まった重りを動かす瞬間、脚の力が強く伝わります。形が崩れていると、その力が そのまま腰に来ます。守り方の考え方と、公開研究が示すリスク因子は 腰痛の予防にまとめました。この記事では繰り返しません。

成長期は、条件が変わります。World Rowing の資料は、若い漕手は体が成熟してから重い挙上に進むこと、それまでは 自分の体重を負荷に使い、サーキットや持久的な練習を優先することを勧めています。 年齢や発育による違いの詳しい扱いは 筋力とパワーのトレーニング入門に。

形を自分で判断できないうちは、見てもらえる場で。正しい形かどうかを自分で確かめられない段階では、指導者や、筋力トレーニングを 見られる人がいる時間帯を選んでください。これは遠回りではなく、あとで重い負荷を 安全に扱うための土台づくりです。

指導者向けポイント

見るべきは、挙がった重さではありません。順番を守れているかと、形が最後まで保てているかです。

持ち帰ってほしいのは、一行だけで十分です。難しい仕事を元気なうちに、形が崩れる手前で止め、重さは形の後から足す。これが、漕ぎのためのウエイトの組み方です。