こぎだし

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UT1 — 話せるが、話したくない

UT2の土台が積めてきたら、次の一歩がここです。UT1は「話せるが、話したくない」強さ。最後まで会話が続くUT2より一段だけ強く、それでも長く保てる強さで漕ぎます。

読了目安6分レベル基礎公開日2026.07.15
クリーム色の紙にネイビーの線画で描いた、一定のテンポを刻むメトロノームと、その横に立てかけた1本のローイングのオール。一定の強さを長く保つUT1の練習を表す。

UT2で長く漕げるようになってくると、次に出てくるのが「UT1」です。同じ「UT」でも、 UT2とUT1は別の帯で、ひとつぶんだけ強さが上がります。その「ひとつぶん」が どれくらいで、何のためにあるのかを、今日の練習を組めるように順に見ていきます。

これは基礎レベルの練習です。前提として、UT2(会話できる強さで長く漕ぐ、 有酸素の土台の帯)である程度の量が積めていること。UT1(ユーティライゼーション1。「利用」の1。 会話が短い返事くらいに減る、有酸素の一段上の帯)は、その土台の上に乗せる帯です。 まだ自分がどの帯にいるか読めない段階なら、先に 強度ゾーンの読み方 から始めてください。名前のとおり、「話せるが、話したくない」が、 この帯のいちばん確かな目印になります。

このメニューの狙い

UT1でいちばん変わるのは、「少しだけ強い漕ぎを、長く保っていられる時間」です。 UT2が「楽に、長く」の土台なら、UT1はその一段上。「少しだけ苦しいが、まだ崩れない」強さを、 距離のなかで保ち続ける練習です。ここが伸びると、レースの中盤から後半で、 強さを保ちやすくなります。

UT1は、土台(UT2)と、もっと速い練習(ATから上)との橋渡しにあたる帯です。 英国代表(GB Rowing Team)の区分では、UT1はAT(これ以上強くすると急に苦しくなる、 その境目で漕ぐ帯)とならんで「中強度」に置かれています。つまりUT1は、有酸素の土台のいちばん上、 ATのすぐ下の境目にいます。この位置どりが、あとで出てくる「よくある失敗」に そのままつながります。

なぜ有酸素の練習がレースの土台になるのか、体の仕組みそのものは、この記事では扱いません。 処方(何をやるか)に徹します。仕組みを知りたくなったら エネルギー供給と強度区分へ。UT1をふくむ5つの帯の全体像は 強度ゾーンの読み方にまとめてあります。

どれくらいの時間、どれくらいの強さで

まず時間から。このメニューの所要時間はおよそ40〜90分です。 出典によって幅があり、Concept2の手引きでは合計30〜60分、英国代表の資料では 60〜120分(代表クラス向け)とされています。40〜90分は、そのあいだに収まる 現実的な目安と考えてください。

次に強さ。UT1は「話せるが、話したくない」強さの帯です。 体が温まり、心拍と呼吸が上がって、汗ばんでくる。会話はできますが続けたくはなく、 短い返事くらいに減ります。目安の心拍とレート(1分間に漕ぐ本数。spm)を、 公開資料の数字で見てみましょう。いずれも幅(レンジ)で示します。単一の断定値にはできません。

心拍
70–80%
レート
20–24spm
所要時間
40–90
心拍とレートはConcept2『Indoor Rowing Training Guide』のUT1の目安。英国代表は心拍予備能(カルボーネン法。最大心拍から安静時心拍を引いて割合を出す考え方)で67〜75%、レートは19〜23としています。ただし、この%が何に対する%かは資料のなかでも一貫せず、「220−年齢」で出す最大心拍の推定にも±15〜20拍/分ほどの誤差があります。だから心拍の数字は目安どまり。尺度の詳しい話は「強度ゾーンの読み方」にゆずります。spmは1分間に漕ぐ本数で、レートは強度の結果であって目標ではありません。所要時間はConcept2で30〜60分、英国代表で60〜120分。艇種・体格・経験・チームの方針で適切な値は変わります。

そして、いちばん頼れる物差しは、やはり「話せるか」です。道具がいりません。 UT2が「最後までリラックスして会話が続く」なら、UT1は「短い返事はできるが、 話し続けたくはない」。主観的なきつさで言えば、10段階 (RPE。主観的運動強度。感じるきつさを0〜10の数字にしたもの)で4あたり。 英国代表がUT1に示した値です。そして次の一段、「もう返事もできない、話せない」まで 上がってしまうと、それはUT1ではなくAT。この一段の違いが、次の「よくある失敗」の 核心になります。

実施方法

エルゴメーター(ローイングマシン)でも水上でも、考え方は同じです。組み立て方は二つあります。 長めに連続で漕ぐか、長いインターバルで区切るか。 どちらでも構いません。今日の一本を、次の手順で組んでください。

  1. ウォームアップを8〜10分
    軽く漕いで体を温める。UT2より少し強い帯に入るので、いきなり目標の強さに入らず、心拍と呼吸を段階的に上げていく。
  2. 連続なら、一定の強さでひとまとまり漕ぐ
    スティディステイト(一定の強さで漕ぎ続ける連続漕)。英国代表の例は 「8〜10kmを1本」です。レートは20〜24に自然に落ち着けば十分です。 狙うのは、「短い返事はできるが、話したくない」強さを、最後まで保つことです。
  3. 区切るなら、長いインターバルで
    手引き(Concept2)の例は3×10分(休息5分)。1本は10〜30分の長め、休息は漕いだ時間の25〜50%(10分漕いだら2〜5分ほど休む)。英国代表の例は「4kmを2本(休息3分)」「2kmを4本(休息2分)」ですが、これは代表クラス向けの距離です。
  4. クールダウンを8〜10分
    安静時心拍の約2倍くらいの、ゆるい漕ぎで終える。急に止めず、体を下ろしていく。高い強度で漕いだあとほど、流す時間が要ります。
インターバルの例
3×10
休息
25–50%
準備・整理
8–10分ずつ
3×10分(休息5分)はConcept2『Indoor Rowing Training Guide』のUT1の例。1本は10〜30分の長め、休息は漕いだ時間に対する割合です。英国代表(GB Rowing Team)のUT1は「8〜10kmを1本」「4kmを2本(休息3分)」「2kmを4本(休息2分)」で、これは代表クラス向けの距離。初心者にそのまま当てはまる量ではありません。合計時間はConcept2で30〜60分、英国代表で60〜120分。ウォームアップとクールダウンは各8〜10分とされ、クールダウンは安静時心拍の約2倍ほどのゆるい漕ぎと定義されています。今日やる量は、チームの指示に合わせてください。

注意点

UT1で気をつけたいのは、大きく二つです。

一つめは、UT1はUT2ほど気軽に積み重ねられないこと。一段強いぶん、回復にかかるコストも上がります。UT2は翌日に疲れを残しにくく、 だから大きな量を積めますが、UT1を毎日のように重ねると、回復が追いつかなくなります。 練習の量そのものは、あくまで低強度(UT2)の土台が担います。UT1は、その上に少しだけ乗せる帯だと 考えてください。英国代表の解説では週の練習の8割超から95%が低強度、World Rowing (国際ボート連盟)が実測した一流漕手の配分でも、準備期で低強度が86〜94%、 レースが近い時期でも70〜77%を占めていました。UT1のような中強度は、そのごく一部です。

二つめは、体調のサインを見落とさないこと。朝、安静時の心拍がいつもより6〜8拍/分以上高い日は、戻るまで強度を上げない。 これは古くからある目安の一つです。なぜ低強度が回復を邪魔せず、中強度以上が回復に コストを求めるのか、その体の仕組みは エネルギー供給と強度区分にまとめてあります。

よくある失敗 — UT1が、いつのまにかATになる

UT1でいちばん多い失敗は、たった一つです。「もう少し押したい」に負けて、 UT1がAT(一段上の帯)になってしまうこと。UT1はもともと 「少しだけ苦しい」帯なので、そこから「ちゃんと苦しい」ところまで、つい上げてしまいます。

UT1で試されるのは、もっと押す力ではなく、押したいのを我慢して、同じ強さを最後まで保つ力です。

指導者向けポイント

UT1は、指導する側からいちばん「上げさせやすい」帯です。選手は「もう少しいける」と感じ、 コーチもつい「もう少し」と言いたくなる。その一言が、UT1をATに変えます。