UT2で長く漕げるようになってくると、次に出てくるのが「UT1」です。同じ「UT」でも、 UT2とUT1は別の帯で、ひとつぶんだけ強さが上がります。その「ひとつぶん」が どれくらいで、何のためにあるのかを、今日の練習を組めるように順に見ていきます。
これは基礎レベルの練習です。前提として、UT2(会話できる強さで長く漕ぐ、 有酸素の土台の帯)である程度の量が積めていること。UT1(ユーティライゼーション1。「利用」の1。 会話が短い返事くらいに減る、有酸素の一段上の帯)は、その土台の上に乗せる帯です。 まだ自分がどの帯にいるか読めない段階なら、先に 強度ゾーンの読み方 から始めてください。名前のとおり、「話せるが、話したくない」が、 この帯のいちばん確かな目印になります。
このメニューの狙い
UT1でいちばん変わるのは、「少しだけ強い漕ぎを、長く保っていられる時間」です。 UT2が「楽に、長く」の土台なら、UT1はその一段上。「少しだけ苦しいが、まだ崩れない」強さを、 距離のなかで保ち続ける練習です。ここが伸びると、レースの中盤から後半で、 強さを保ちやすくなります。
UT1は、土台(UT2)と、もっと速い練習(ATから上)との橋渡しにあたる帯です。 英国代表(GB Rowing Team)の区分では、UT1はAT(これ以上強くすると急に苦しくなる、 その境目で漕ぐ帯)とならんで「中強度」に置かれています。つまりUT1は、有酸素の土台のいちばん上、 ATのすぐ下の境目にいます。この位置どりが、あとで出てくる「よくある失敗」に そのままつながります。
なぜ有酸素の練習がレースの土台になるのか、体の仕組みそのものは、この記事では扱いません。 処方(何をやるか)に徹します。仕組みを知りたくなったら エネルギー供給と強度区分へ。UT1をふくむ5つの帯の全体像は 強度ゾーンの読み方にまとめてあります。
どれくらいの時間、どれくらいの強さで
まず時間から。このメニューの所要時間はおよそ40〜90分です。 出典によって幅があり、Concept2の手引きでは合計30〜60分、英国代表の資料では 60〜120分(代表クラス向け)とされています。40〜90分は、そのあいだに収まる 現実的な目安と考えてください。
次に強さ。UT1は「話せるが、話したくない」強さの帯です。 体が温まり、心拍と呼吸が上がって、汗ばんでくる。会話はできますが続けたくはなく、 短い返事くらいに減ります。目安の心拍とレート(1分間に漕ぐ本数。spm)を、 公開資料の数字で見てみましょう。いずれも幅(レンジ)で示します。単一の断定値にはできません。
そして、いちばん頼れる物差しは、やはり「話せるか」です。道具がいりません。 UT2が「最後までリラックスして会話が続く」なら、UT1は「短い返事はできるが、 話し続けたくはない」。主観的なきつさで言えば、10段階 (RPE。主観的運動強度。感じるきつさを0〜10の数字にしたもの)で4あたり。 英国代表がUT1に示した値です。そして次の一段、「もう返事もできない、話せない」まで 上がってしまうと、それはUT1ではなくAT。この一段の違いが、次の「よくある失敗」の 核心になります。
実施方法
エルゴメーター(ローイングマシン)でも水上でも、考え方は同じです。組み立て方は二つあります。 長めに連続で漕ぐか、長いインターバルで区切るか。 どちらでも構いません。今日の一本を、次の手順で組んでください。
- ウォームアップを8〜10分軽く漕いで体を温める。UT2より少し強い帯に入るので、いきなり目標の強さに入らず、心拍と呼吸を段階的に上げていく。
- 連続なら、一定の強さでひとまとまり漕ぐスティディステイト(一定の強さで漕ぎ続ける連続漕)。英国代表の例は 「8〜10kmを1本」です。レートは20〜24に自然に落ち着けば十分です。 狙うのは、「短い返事はできるが、話したくない」強さを、最後まで保つことです。
- 区切るなら、長いインターバルで手引き(Concept2)の例は3×10分(休息5分)。1本は10〜30分の長め、休息は漕いだ時間の25〜50%(10分漕いだら2〜5分ほど休む)。英国代表の例は「4kmを2本(休息3分)」「2kmを4本(休息2分)」ですが、これは代表クラス向けの距離です。
- クールダウンを8〜10分安静時心拍の約2倍くらいの、ゆるい漕ぎで終える。急に止めず、体を下ろしていく。高い強度で漕いだあとほど、流す時間が要ります。
注意点
UT1で気をつけたいのは、大きく二つです。
一つめは、UT1はUT2ほど気軽に積み重ねられないこと。一段強いぶん、回復にかかるコストも上がります。UT2は翌日に疲れを残しにくく、 だから大きな量を積めますが、UT1を毎日のように重ねると、回復が追いつかなくなります。 練習の量そのものは、あくまで低強度(UT2)の土台が担います。UT1は、その上に少しだけ乗せる帯だと 考えてください。英国代表の解説では週の練習の8割超から95%が低強度、World Rowing (国際ボート連盟)が実測した一流漕手の配分でも、準備期で低強度が86〜94%、 レースが近い時期でも70〜77%を占めていました。UT1のような中強度は、そのごく一部です。
二つめは、体調のサインを見落とさないこと。朝、安静時の心拍がいつもより6〜8拍/分以上高い日は、戻るまで強度を上げない。 これは古くからある目安の一つです。なぜ低強度が回復を邪魔せず、中強度以上が回復に コストを求めるのか、その体の仕組みは エネルギー供給と強度区分にまとめてあります。
よくある失敗 — UT1が、いつのまにかATになる
UT1でいちばん多い失敗は、たった一つです。「もう少し押したい」に負けて、 UT1がAT(一段上の帯)になってしまうこと。UT1はもともと 「少しだけ苦しい」帯なので、そこから「ちゃんと苦しい」ところまで、つい上げてしまいます。
UT1で試されるのは、もっと押す力ではなく、押したいのを我慢して、同じ強さを最後まで保つ力です。
指導者向けポイント
UT1は、指導する側からいちばん「上げさせやすい」帯です。選手は「もう少しいける」と感じ、 コーチもつい「もう少し」と言いたくなる。その一言が、UT1をATに変えます。
