この記事は、スポーツ栄養の基礎の 続きです。基礎の記事では「そもそも足りているか」「何を、どれだけ、いつ」の 考え方を扱いました。ここでは、その「どれだけ」を数字で見ていきます。
先に一つ、断っておきます。これから出てくる数値は、その大半が成人の競技者を対象にした研究やガイドラインの値です。ある査読レビューは、糖質ガイドラインの根拠となる研究の多くが 健康な男性を対象にしている、とはっきり書いています。中高生、とくに成長期の 体にそのまま当てはまるとは限りません。数字は「だいたいの位置」をつかむために 使い、細かい調整はチームや、必要なら公認スポーツ栄養士・医療者に委ねてください。
糖質は、1日に体重あたり何グラムか
糖質(炭水化物)の1日の目標量は、その日どれだけ練習するかで決まります。米国の栄養士会とスポーツ医学会が合同で出した2016年の声明 (その数値は国際オリンピック委員会やオーストラリア国立スポーツ研究所の 資料とも一致しています)は、練習量に応じた区分を示しています。
中学・高校の乗艇とエルゴを組み合わせた練習日は、「多い日」の帯(6〜10g/kg)に入りやすいと考えておくと、大きく外しません。体重50kgの選手なら、1日およそ 300〜500g。ごはん茶碗1杯(約150g)に糖質がおよそ55g含まれるので、 主食だけでこの量を賄うのは意外と大変で、果物や補食が効いてきます。
ここで大事なのは、この数字を下限として見ることです。糖質が 足りない状態が続くと、練習の質が落ちるだけでなく、体を守る働きにも 影響が出ます。その話は鉄とエネルギー不足の記事に 譲りますが、「量が足りているか」は、配分より先に確かめるべきことです。
グリコーゲンという、燃料タンク
食べた糖質は、グリコーゲンという形で、主に筋肉と肝臓にためられます。これが、強く漕ぐときの 主な燃料タンクです。容量には、だいたいの目安があります。
注目してほしいのは、三つめの数字です。使い切ったグリコーゲンは、1時間に5%ほどしか戻りません。 満タンにするには、何時間もかかるということです。ふだんの練習では 翌日までに戻ればいいので問題になりませんが、同じ日にもう一度漕ぐときには、この遅さが効いてきます。
レース中にグリコーゲンがどう使われるかは、レース中、体は何を使っているのかで 詳しく扱っています。短い全力でも、思ったより大きく減ることが分かっています。
試合当日の食べ方
ここで、意外に思うかもしれないことを一つ。2000mのレース1本のために、特別な「カーボローディング」は要りません。長い時間をかけて糖質をためこむ食事法は、ガイドライン上90分を超える種目のためのもので、6〜8分で終わるローイングのレースは対象外です。 レース前に必要なのは、ふだんの「多い日」と同じくらいの糖質を、 前日から普通に食べておくことです。
当日の流れとしては、次のように整理できます。
- レースの1〜4時間前 — 主食中心の食事60分を超える運動の前は、体重1kgあたり1〜4gの糖質を、1〜4時間前に摂るのが目安です。脂質と食物繊維は控えめに、消化のよいものを。緊張で食べられないときは、量を減らして時間を早めに。
- レースの直前 — 無理に足さない6〜8分のレース1本では、その最中に糖質を摂る必要はありません(ガイドラインでも45分未満の運動中の補給は不要とされています)。直前は、水分を少しと、いつもどおりのウォームアップに集中します。
- 漕ぎ終わったら — 次があるなら、すぐ戻す1日に1本で終わりなら、慌てず通常の食事で回復すれば十分です。問題は、同じ日にもう一度漕ぐ場合。ここだけは、時間との勝負になります。
レガッタの、レースとレースのあいだ
ここが、ローイングでいちばん実務的な話です。レガッタでは、同じ日に予選・敗者復活戦・準決勝・決勝と、何度も漕ぐことがあります。国際オリンピック委員会の声明も、 短い期間に複数のレースをこなす場合は水分と燃料の回復戦略が重要だ、と わざわざ書いています。
さきほどの「グリコーゲンは1時間に5%しか戻らない」を思い出してください。 次のレースまで数時間しかないなら、使える回復時間を1分もむだにしないことが効いてきます。ガイドラインは、次の運動まで8時間を切っている ときの回復について、具体的な数字を出しています。
言い換えると、漕ぎ終わってすぐ、次のレースまでの時間から逆算して、少しずつ食べ続ける。これがレガッタの一日を最後まで戦うコツです。次が2時間後なら、 消化のよい糖質(おにぎり、バナナ、糖質を含む飲料など)を、こまめに。 脂っこいものは消化に時間がかかるので、レースの合間には向きません。
グリコーゲンは、ゆっくりしか戻りません。だから「あとで一気に」ではなく、 「終わった直後から、少しずつ」です。
たんぱく質は、量より「分け方」
たんぱく質については、基礎の記事で「作り直すための材料」 として扱いました。ここでは一歩進んで、摂り方の話をします。近年のガイドラインは、1日の総量より 「1回にどれだけを、どの間隔で」を重く見るようになっています。
つまり、朝にプロテインを一気に、ではなく、3食+補食に分けて少しずつ。 そのほうが、同じ総量でも体の作り直しは進みます。ある研究では、同じ 1日80gのたんぱく質でも、20gを3時間おきに4回摂った群が、まとめて摂った群より 筋肉を作る反応が高かった、と報告されています。
回復は、三つを同時に
ローイングの回復栄養をまとめた査読レビューは、練習・レースのあとに 戻すべきものを、三つの「R」で整理しています。
- Refuel(燃料を戻す)— 糖質使ったグリコーゲンを戻す。次の練習・レースまでの時間が短いほど、早く、こまめに。1日で終わりなら、通常の食事で十分です。
- Rehydrate(水分を戻す)— 水と塩分どれくらい水分が減ったかは、練習前後の体重で分かります。国立スポーツ科学センターの資料は、体重の減りを2%以内に保つことを目安にしています(体重50kgなら1kg以内)。
- Repair(作り直す)— たんぱく質運動後の早い段階で、良質なたんぱく質を15〜25gほど。糖質と一緒に摂れる食品(牛乳、ヨーグルト、卵かけごはんなど)だと、二つを同時に進められます。
特別なものは要りません。おにぎりと牛乳、ごはんと卵、バナナとヨーグルト。 身近な組み合わせで、三つのRはだいたい満たせます。水分の詳しい話は水分補給と電解質に、 睡眠を含めた回復全体の話は睡眠とリカバリーにあります。
明日から使えること
数字がたくさん出てきましたが、持ち帰るのは三つで足ります。
一つめ。練習量の多い日は、糖質を意識して増やす。 体重あたり6〜10gは、主食だけだと届きにくい量です。果物や補食を、 練習の前後に足す。
二つめ。レガッタで一日に何度も漕ぐ日は、終わった直後から少しずつ食べる。 グリコーゲンはゆっくりしか戻らないので、「あとでまとめて」では間に合いません。 消化のよい糖質を、こまめに。
三つめ。たんぱく質は、一気にではなく分けて。 そして、ここに出てきた数字はどれも成人の研究が土台で、成長期の体には 上限もあります。まず整えるべきは、特別な食品ではなく、過不足のない 普通の食事です。
燃料の話は、根性の手前にあります。足りていない体に、気合いは効きません。
