こぎだし

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水分補給と電解質 — 体重が教えてくれること

「どれくらい飲めばいいのか」に、万人に当てはまる一つの数字はありません。答えは自分の体が持っています。体重計と、汗の記憶を手がかりに、自分の目安を作っていきましょう。

読了目安6分レベル入門公開日2026.07.14
文字盤のあるアナログ計量器の上に、スクイズ式の水筒が1本まっすぐ立っている線画。水分補給と体重の関係を象徴している。

漕いでいる最中は、飲めません。両手はオールを握っていて、艇は止まりません。 それでも水は持ち込みます。ペットボトルやスクイズボトル (片手で押して飲める、やわらかい容器)を艇に積んで出るのが普通です。 飲めるのは、手が空いた瞬間だけです。メニューがひと区切りついたとき、 周回コースで折り返すとき、コーチの話を聞くために艇を止めたとき。 ローイングの水分補給は、その数少ない区切りをどう使うかで決まります。

コックス(舵を取り、クルーに指示を出す人)が乗る艇では、クルーのボトルを コックスがまとめて足元に置いていることもよくあります。誰が、何本、どこに積むのか。 出艇前のその一手間が、水の上での選択肢をそのまま決めます。

そして、どれくらい飲むべきかには、全員共通の正解がありません。 汗の量は、体格・強度・気温・暑熱順化(体が暑さに慣れていくこと)の程度で、 同じクルーの中でも大きく違います。 だからこそ、公開されているガイドラインの多くは、 「自分で測る方法を渡す」という書き方をしています。

脱水は、気づく前に効いている

汗をかいて体重が減っていくと、血液の量が減り、心臓は同じ仕事をするために より多く拍動する必要が出てきます。体温を逃がす働きも落ちていきます。 結果として、同じ強度が同じ強度に感じられなくなる——これが、 脱水がパフォーマンスに効いてくるときの、典型的な感覚です。

国際的な公開ガイドラインが共通して置いている線は、体重の減り方です。下の目安を見てください。

体重減少の目安
2% 以内
体重1kgの減り
≒ 1L の水分
米国スポーツ医学会(ACSM)の公開ポジションスタンド、および環境省の公開資料が共通して示している考え方です。2%という線は「ここまでは安全」という保証ではなく、パフォーマンスと体温調節への影響が見えはじめる目安として使われています。体格・気象条件・暑熱順化の程度で実際の発汗量は大きく変わります。

水の上では汗が乾きやすく、川風にあたっていると「かいていない」と感じます。 寒い日も同じです。呼気と皮膚から水分は出続けていて、 そのうえ寒いと喉の渇きを感じにくくなります。 冬の練習後の頭の重さの正体が脱水であることは、珍しくありません。

自分の汗の量を、一度だけ測る

環境省の公開資料は、最適な水分摂取量を決める最も良い方法として、運動の前と後に体重を測ることを挙げています。 一度やっておけば、自分の「1時間あたりの目安」が手に入ります。 特別な道具は要りません。体重計と、飲んだ量のメモだけです。

  1. 練習前に体重を測る
    できるだけ薄着で、乗艇の直前に。艇庫に体重計があるなら、それを定位置にする。
  2. 飲んだ量を数える
    ボトル何本分か、だけでよい。500mLのボトルなら本数を覚えておく。
  3. 練習後に、もう一度測る
    濡れたウェアのままだと数字がずれるので、着替えるか、乾いた状態で測る。
  4. 引き算する
    (練習前の体重 − 練習後の体重)+ 飲んだ量 = その練習でかいた汗の量。練習時間で割れば、1時間あたりの目安になる。

これを暑い日と涼しい日に一度ずつやると、 自分の幅が見えてきます。国際ボート連盟(World Rowing)が公開している 栄養の解説記事も、条件によって必要量が大きく変わることを前提に、 レンジで示しています。

暑い条件の目安
1–2L / 時
寒い条件の目安
0.5–2L / 時
練習後の補給
1.5
上2つは World Rowing の公開記事が示すレンジ。「練習後の補給」は、減った体重に対して1.5倍量の水分を、時間をかけて分けて摂るという考え方(ローイング選手の栄養に関する公開レビューより)。いずれも個人差・気象条件・艇種で大きく変わるため、自分で測った値に置き換えてください。

ナトリウムが要るのは、どんなときか

汗には塩分が含まれています。だから、汗をたくさんかいた状態で 水だけを大量に飲むと、体の中のナトリウム濃度が薄まっていきます。 電解質(汗といっしょに失われるナトリウムなどのミネラル)を 意識する必要が出てくるのは、主に次のような場面です。

長い練習(おおむね1時間を超えるもの)。暑い日。 汗が乾いてウェアや肌に白い跡が残るタイプの人。 そして、レガッタ(ボートの競技会)のように、 朝から夕方まで会場にいて、何度も水分を摂る一日。

飲料の食塩濃度
0.1–0.2%
ナトリウム量
40–80mg / 100mL
糖質(長時間時)
4–8%
食塩濃度とナトリウム量は環境省の公開資料が示す目安(水1Lに食塩1〜2g程度に相当)。糖質4〜8%は、1時間以上の運動で疲労予防と水分の吸収の両面に役立つとして日本スポーツ協会の公開ガイドブックが示している範囲。塩分の摂取を制限されている場合など、個人の事情が優先されます。

この数字は、日本の公的機関が「誰でも同じように作れる」形で示している点に 特徴があります。特別な製品を買わなくても、 手元の水に少量の食塩を溶かせば届く濃度として書かれています。

日本の指針と、海外の指針を並べて読む

この分野は、日本と海外で「言っていること」は近く、 「渡し方」が違います。並べて読むと、両方の意図が見えてきます。

日本の公開指針(環境省・日本スポーツ協会など)は、 誰でも今日から実行できる具体的な濃度と、 体重減少2%以内という共通の目安を、はっきり示します。 学校の部活動のように、指導者の専門性に幅がある現場で 「全員が同じ安全ラインに乗れる」ことを重視した書き方です。

海外の公開ポジションステートメント(ACSM、NATA など)は、 ひとつの数字を配ることを避け、個々の発汗量を測って 自分用の計画を作ることを繰り返し求めます。 そして、足りないことと同じ強さで過剰に飲むことのリスクを書きます。

結論としては、両者は矛盾しません。 日本の指針の数字を出発点として使い、 海外の指針が言うように自分の体重で答え合わせをする。 この二段構えが、いちばん現実的です。

数字は借りてよい。ただし、最後に確かめるのは自分の体重計です。

ローイングの一日に、どう落とし込むか

最後に、練習日とレガッタの日に分けて、置きどころを整理します。 ここでは数字は出てきません。置き場所の話です。

  1. 乗艇の前に、飲んでおく
    艇を出す直前の一口では遅い。艇庫でリギング(艇のセッティング)を確認している時間が、ちょうどよいタイミングになる。
  2. ボトルを艇に積む
    自分の分は自分で。コックスが乗る艇なら、コックスに預けてまとめて足元に置いてもらうことも多い。転がって足に絡まない位置に置くのがコツ。
  3. 区切りで飲む
    メニューがひと区切りついたとき、周回で折り返すとき、コーチの話で艇を止めたとき。手が空く瞬間は限られている。「そのうち飲もう」は、たいてい飲まないまま終わる。
  4. 艇を上げた直後に、また飲む
    片付けの前に、揚艇してすぐ飲む。ここを逃すと、そのまま帰路に入ってしまう。
  5. レガッタでは、待ち時間を設計する
    アップ、レース、次のレースまでの待機。会場にいる時間の大半は「待ち」で、そこでの補給が積み上がる。ボトルは自分の分を自分で管理する。
  6. 寒い日ほど、意識して飲む
    渇きを感じにくいだけで、水分は失われている。冬の長い乗艇やエルゴメーター(ローイングマシン)の練習でも、ボトルを手元に置く。

クルーで漕ぐ以上、水分補給は個人の問題であると同時に、 クルー全体の問題でもあります。ひとりが脱水すれば、艇は進みません。 出艇前にボトルの積み込みを確認する。メニューに給水の区切りをあらかじめ入れておく。 そうした仕組みのほうが、個人の気合いより確実に効きます。