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体重計の数字と、どう付き合うか — 体組成の見方、増量、そして軽量級のこと

体重は、朝と夜で、食事と練習で、一日のうちに何度も動きます。その動く数字を、どう読み、どう使うか。増やしたい人も、減らすよう言われて悩む人も、まず必要なのは「体重計の数字の正体」を知ることです。体組成、増量、そして軽量級の話を、安全の側に軸足を置いて整理します。

読了目安10分レベル発展公開日2026.07.27
床に置かれた体重計を横から見た線画。目盛りや数字は描かれておらず、盤面は空白のまま。数字そのものより付き合い方を主題にした、静かな構図。

ローイングは、艇と自分の体を水の上で動かす競技です。だから体の重さと中身は、 速さに関わります。けれど、体重の数字は思っている以上に扱いが難しく、読み方を間違えると、かえって遠回りになったり、体をこわしたりします。 この記事は、その数字との付き合い方の話です。

先に、この記事が扱わないことをはっきりさせます。 減量そのものの方法や、エネルギー不足(REDs)の詳しい話は、鉄と貧血、エネルギー不足に まとめてあります。ここでは、その手前——体重計の数字をどう読むか、 増やしたいときにどう考えるか、そして軽量級をめぐって知っておくべきこと——を 扱います。数値の多くは成人の研究が土台で、成長期の体にそのまま 当てはまるわけではない、という前提も先に置いておきます。

体重は、一日で動く

まず、いちばん大事なこと。朝と夜で体重が1kg前後違うのは、ふつうのことです。その変動の大半は、体の中の水分の出入りです。汗をかけば減り、 食事や水を摂れば増える。水分補給の 記事で見たとおり、練習の前後で体重が動くのは、脂肪が増減したからでは ありません。

「食べ過ぎた翌日に体重が増えた」も、多くは水分です。ある研究では、 3日間ふだんより多く食べても、増えた体重の大部分は体水分で、体脂肪はほとんど増えていませんでした

3日間の過食での体重増
+0.7kg
うち体水分の増加
+0.7kg
体脂肪の増加
+0.2kg
健康な男性を対象に、3日間ふだんより1日1500kcal多く食べた研究の値です(体重63.4→64.1kg、体水分38.7→39.4kg、体脂肪9.01→9.19kg)。短期の体重変動の大半は水分で、体脂肪がすぐ増えるわけではない、という一例。ただし、長期にエネルギーを摂りすぎれば体脂肪は蓄積します。

だから、一日ごとの数字に一喜一憂しないことです。体重を管理の道具として使うなら、日本スポーツ協会の資料が 勧めるように毎朝、起きて排尿したあとの同じ条件で測るのが基本。そのうえで、一日単位ではなく、1週間くらいの流れで見ます。数字は「今日の自分の点数」ではなく、「流れを知るための目盛り」です。

体重計の数字は、あなたの価値ではありません。流れを読むための、目盛りです。

体組成という「中身」

同じ体重でも、中身は人それぞれ違います。体は大きく、体脂肪量と、それ以外の除脂肪量(筋肉・骨・内臓・水分など)に分けられます。ここで意外なのが、除脂肪量の大部分は水分だということ。筋肉のおよそ4分の3は水分です。だから水分の出入りで 体重が動くのは、当たり前なのです。

体脂肪率を測る機械(体組成計)もありますが、どの方法も推定値です。国立スポーツ科学センターの資料も、複数ある測定法について 「どれが正確かは分からないのが現状」とはっきり書いています。 さらに、中高生には決定的な注意があります。

体組成計を使うなら、日本の公的資料が勧める使い方は共通しています。同じ機器で、同じ時間帯・同じ服装で、1週間ごとに変化を見る。 一回の絶対値ではなく、条件をそろえた変化を追う。ここでも、見るのは 「点」ではなく「流れ」です。

「増やす」は、「減らす」より難しい

ローイングを始めた中高生から、いちばんよく聞く悩みは、実は「食べても大きくならない」のほうです。ローイングは消費エネルギーが大きいので、練習量に食事が 追いつかないと、体は大きくなりません。増量は、減量よりむしろ根気がいります。

国立スポーツ科学センターの資料は、増量の要点を数値で示しています。

消費より多く摂る量
+500–1000kcal/日
たんぱく質
1.6–2.4g/kg
除脂肪量が増える速さ
0.25–0.5kg/週
国立スポーツ科学センターの資料が示す増量の目安です(体重階級制競技のアスリート向け。年齢・競技での調整が前提)。除脂肪量の増える速さには上限があり、あせって食べても脂肪が増えるだけになりがちです。たんぱく質を『とればとるだけ』増えるわけでもありません(詳しくは「漕ぐための燃料」で扱っています)。

コツは、漕ぐための燃料筋力トレーニングの組み合わせです。 エネルギーを少し多めに、たんぱく質を分けて摂り、負荷をかける練習を重ねる。 そして、あせらない。除脂肪量は週に0.25〜0.5kgくらいの ペースでしか増えません。1か月で見て少しずつ、が現実的です。

軽量級と減量 — ここは、安全の側に強く振る

ローイングには軽量級という体重別のカテゴリーがあります。だから「体重を落とさなければ」という 話が、他競技より出やすい。ここは、はっきり書きます。成長期の減量には、はっきりとした危険があります。

まず、制度の事実から。世界の統括団体(World Rowing)の規則では、軽量級はシニアとU23にだけあり、U19(ジュニアの年代)には軽量級のカテゴリーそのものがありません。 さらにアメリカの統括団体(USRowing)は、2022年からユース(若年)の軽量級種目を廃止しました。その理由として、「発育途上の思春期の選手にとって体重管理は危険な行為であり、支持できない」と明言しています。選手に不健全な方法で「体重を合わせる」ことを促す行為は、 安全なスポーツの方針に反する、とまで述べています。

世界の統括団体は、育ち盛りの年代に軽量級を置いていません。 その事実自体が、答えの一つです。

なぜそこまで慎重なのか。軽量級のローイング選手を対象にした研究が、 その理由を生々しく示しています。英国の現役・元選手12名への聞き取りでは、 全員が食事を制限しながら運動量を増やしていて、報告された不調は 広範囲に及びました。

筋骨格の痛み・けが
11/12
睡眠障害・疲労
10/12
食への罪悪感・不安
12/12
英国の軽量級ローイング選手12名(女性67%、平均22歳)への質的研究(2022年、IOCのREDs声明にも引用)の自己報告です。けがには肋骨疲労骨折や椎間板の障害が含まれ、女性8名中5名が月経の異常を報告しました。さらに11名が引退後も続く否定的なボディイメージを、10名が競技をやめたあとも運動との関係が悪化したと述べています。少人数の質的研究で発生率を示すものではありませんが、代償の重さが読み取れます。

注目してほしいのは、影響が引退後も続いたという点です。競技をやめても、体との、食べ物との関係の歪みは残りうる。 目の前のレースのための減量が、その後の人生に尾を引くことがあるのです。

明日から使えること

体重の話は、数字に振り回されやすい領域です。持ち帰るのは三つで十分です。

一つめ。体重の一日の変動は、ほとんど水分。 毎朝同じ条件で測って、1週間の流れで見る。一日の上下に一喜一憂しない。

二つめ。多くの中高生にとっての課題は、減らすことより、足りる量を食べること。 増やしたいなら、食事と筋力トレーニングを、あせらず重ねる。成長にも エネルギーがいります。

三つめ。減量は、ひとりで決めない。 育ち盛りの年代に、世界の統括団体は軽量級を置いていません。体重を落とす 判断が必要になったら、指導者・医療者・保護者と一緒に。それは弱さでは なく、体を守る、いちばん確かな方法です。

守るべきは、目の前のレースの前に、そのあと何十年も付き合う体のほうです。