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TRAINING

筋力とパワーのトレーニング入門 — フォームが先、負荷は後

ウエイトルームに入るのに、気後れは要りません。ローイングの筋力トレーニングでいちばん大事なのは、挙げた重さではなく、負荷を足す順番です。

読了目安7分レベル基礎公開日2026.07.14
静かなウエイトルームで、スクワットラックに水平に載った1本のバーベルと、床に置かれた2枚のウエイトプレート。ネイビーの線画。

ローイングは持久系の競技です。それなのに、なぜ多くのクルーがウエイトトレーニング (おもりを使った筋力トレーニング)に時間を割くのか。ここが最初のつまずきどころです。

答えは単純で、一本の漕ぎで水に伝えられる力の上限を決めているのが筋力だからです。持久力は「その出力をどれだけ続けられるか」を決めますが、 続けるべき出力そのものが小さければ、艇は速くなりません。 筋力は、その土台にあたります。

まず、位置づけを間違えない

World Rowing(国際ボート連盟)が公開しているコーチ育成資料では、ローイングは 数分間にわたって高い出力を出し続ける持久系の種目として扱われ、レース中に使われる エネルギーの大部分を有酸素系(酸素を使って長く力を出し続ける仕組み)が担うと されています。2000mを漕ぎ切るのにかかる時間は、艇種・レベル・水面の条件で変わり、 おおむね5〜8分。つまり、練習時間の配分としては持久系が中心になります。

有酸素の寄与
70–88%
無酸素の寄与
12–30%
2000mの所要時間
5–8
複数の公開研究で報告されている範囲の例です。測定方法・年齢・性別・艇種によって値は変わり、単一の正解はありません。World Rowingのコーチング資料では、おおまかな目安として有酸素:無酸素 = 約75:25 という言い方も使われています。

だからこそ、筋力トレーニングの目的は持久系の練習に耐えられる体を作り、一本あたりの出力の天井を上げることに置きます。筋肉を大きくすること自体は、目的になりません。同じ資料は筋力を、最大筋力(一度に出せる力の大きさ)、パワー (その力を速く出す能力)、筋持久力(力を出し続ける能力)の3つに分けて考えています。 ローイングで効いてくるのは、後ろの2つの比重が大きい、と覚えておけば十分です。

大原則 — フォームが先、負荷は後

World Rowing の資料は、若い漕手・初心者に向けた章で、 はっきりとした順番を示しています。要点は3つです。 十分な準備の土台ができるまで負荷を上げないこと。 高い負荷を扱う種目では正しい技術を教え、監督下で行うこと。 そして、鋭い痛みが出たらその場で中止すること。

ACSM(米国スポーツ医学会)が公開している筋力トレーニングの進め方に関する ポジションスタンドも、負荷を段階的に増やしていく「漸進性」を 設計の中心に置いています。 飛び級の方法は、どこにも書かれていません。

  1. 自体重で動きを覚える
    おもりを持たずに、しゃがむ・股関節を折る・押す・引くの形を作る。鏡や動画で、腰が丸まっていないかだけを見る。
  2. 軽い負荷で、可動域と回数を確保する
    重さを足す前に、正しい形のまま最後の1回まで動き切れるかを確かめる。ここで崩れるなら、まだ重さを足す段階ではない。
  3. 少しずつ負荷を足す
    形が保てる範囲で、小さく増やす。増やした日に形が崩れたら、前の重さに戻す。戻すことも、設計の一部。

軽い重さで正しく動けない日は、重い重さでも正しく動けません。急がなくて大丈夫です。

この順番を守れる環境かどうかも、同じくらい大事です。 正しい形が自分で判断できないうちは、指導者や、 筋力トレーニングの指導ができる人に見てもらえる時間帯を選んでください。

守る場所は、腰

ローイングの筋力トレーニングで最優先に守るべき場所は、腰です。 ここを痛めると、水上もエルゴメーター(ローイングマシン)も止まります。

腰椎(背骨の腰の部分)とローイングの関係を扱った査読論文のレビューでは、 疲れてくるとキャッチ(ブレードが水に入る一瞬)での腰椎の丸まりが増えること、 そしてその傾向がエルゴメーターでより顕著に見られることが報告されています。 腰痛の経験がある漕手ほど、キャッチで骨盤が後ろに倒れやすい傾向も指摘されています。

さらに、複数の研究をまとめたメタ分析では、腰痛の既往(過去に腰を痛めたことがあるか)が、もっとも一貫したリスク因子として浮かび上がっています。年齢・性別・体格・競技レベル・練習量といった項目の多くには、 はっきりした関連が見られませんでした。

そのメタ分析が報告している具体的な数値と、その読み取り方は腰痛の予防の記事でくわしく扱っています。この記事で持ち帰ってほしいのは、一度目を作らないことが、いちばん効率のよい予防になるという一点です。 我流で重いバーベルを担ぐ前に、股関節を折る動き(ヒップヒンジ。腰を丸めずに お尻を後ろへ引き、上体を前に倒す動き)を、まず軽い負荷で身につけてください。

何を鍛えるか — 動作パターンで考える

種目名を先に覚えると、こなすことが目的になりがちです。 先に押さえたいのは、体をどう使う動きなのかという分類のほうです。 ローイングに関わる動きは、おおまかに次のようにまとめられます。

  • 下肢で押す。しゃがんだ姿勢から脚で床を押して立ち上がる動き。 ドライブ(水中で艇を進める局面)の出発点にあたります。
  • 股関節を折って起こす。腰を丸めずにお尻を引き、上体を倒して戻す動き。 腰を守るうえで、いちばん先に身につけたい形です。
  • 上半身で引く。ハンドル(オールの握り)を体へ引き寄せる動きにつながります。
  • 体幹で支える。脚が出した力を、腰を折らずに上体へ伝えるための土台。 動かす力より、動かされない力として考えます。

具体的な種目・回数・重量の組み方は、体格・経験・成長段階・使える設備で変わります。 この記事では、特定のメニューを処方しません。 分類だけ持っておけば、指導者から渡されたメニューが「何を狙っているのか」を 自分で読めるようになり、我流に逃げずに済みます。

成長期は、条件が変わる

中学生・高校生の場合、話は「軽めにする」では済みません。 NSCA(米国のストレングス&コンディショニングの専門団体)が公開している 長期的な選手育成に関するポジションステートメントは、 子どもや思春期の選手を「小さな大人」として扱わないことを繰り返し強調しています。 過大な強度、極端な量、休養の不足を割り当てないこと。 発育・発達の速さには大きな個人差があるため、計画を個別化すること。 これが前提条件です。

日本側にも、公開された考え方があります。 スポーツ庁の運動部活動に関するガイドラインは、 過度の練習がスポーツ障害・外傷のリスクを高め、 必ずしも体力・運動能力の向上につながらないこと、 そして発達の個人差に関する正しい知識を持って指導することを明記しています。 休養日と活動時間についての具体的な目安も示されていますが、その数値と読み方は腰痛の予防の記事にまとめました。ここでは、量の枠組みが公的に示されているという事実だけ 押さえておけば十分です。

日本のガイドラインは「どれだけのを課すか」を主に扱っています。 一方、World Rowing や NSCA の公開資料が繰り返し書いているのは、 「誰が見ているか」「技術が身についてから負荷へ進んでいるか」という質の条件です。量の上限を守っていても、 我流の高重量を無監督で扱えば、腰は壊れます。 成長期に高い負荷を扱うなら、指導者・専門家の管理下で、というのが、 この両方を満たす最低ラインです。

迷ったときの基準

重さを足すか迷ったら、こう考えてください。その重さで、いちばん疲れた最後の1本まで、同じ形で動けるか。答えが「たぶん」なら、今日はまだ足さない。 この一行だけで、初心者の期間に起こる腰のトラブルの多くは避けられます。

そして、痛みが出たら止める。これは、 World Rowing の資料にも明記されている、世界共通のルールです。