こぎだし

TECHNIQUE

ブレードピッチとシャフト硬度 — オールの硬さは怪我予防で選ぶ

ピッチや硬度と聞くと、上級者だけの細かい話に思えるかもしれません。実はどちらも、初心者にこそ関わる設定です。漕ぎの安定と、怪我の予防に直結するからです。

読了目安6分レベル基礎公開日2026.07.14
木の作業台に横向きに寝かせたスカル用オール1本。ブレードの手前に角度を測る小さなピッチゲージが置かれている。

この記事で扱うのは、オールにまつわる二つの設定です。ひとつはブレードピッチ。ブレード(オールの先の、水をつかむ 平たい部分)の上端が、スターン(艇の後ろ側)へわずかに傾く角度のことです。 もうひとつはシャフト硬度。シャフト(オールのハンドルと ブレードをつなぐ長い棒の部分)の、しなりの度合いです。

リギング(艇のセッティング)の目的は、「陸上で出せる力を水の上でも 発揮できるように漕ぎやすくすること」と「漕いだ力をできるだけ全部、 艇を進める力に変えること」の二つに整理できます。ピッチと硬度は このうち前者、それも「安全に漕ぎやすくする」ための設定です。だから、 経験の浅い時期ほど無関係ではいられません。

ブレードピッチとは — 深さを安定させる角度

多くの艇では、ブレードは水面に対して完全に垂直ではなく、上端が スターン側へ少しだけ傾くように設定されています。この傾きの角度が ブレードピッチで、スターン方向の成分を指してスターンピッチとも 呼ばれます。

何のための角度かというと、水中でブレードの深さを安定させるためです。 ピッチが足りないとブレードは深く潜りやすく、逆に大きすぎると水を つかみきれず浅く滑りやすくなります。ピッチは、一漕ぎのあいだ ブレードをちょうどよい深さに保つための、目に見えない支えです。

初心者は、大きめの約8度から

世界で広く語られている角度の目安は、 経験によって変わります。スイープ(1本のオールを両手で持つ漕ぎ方)と スカル(左右の手に1本ずつ、計2本のオールを持つ漕ぎ方)でも、経験者の レンジは少し異なります。具体的な数字は、下の目安を見てください。

初心者
7–8
経験者(スイープ)
5–8
経験者(スカル)
4–7
初心者は「約8度」とされる値を幅で示したもの。いずれも艇・体格・クルー・指導方針で調整される目安で、出典によってレンジはやや異なります。

初心者の目安が大きめなのは、漕ぎ始めの時期はブレードの深さの コントロールがまだ安定しないからです。大きめの ピッチはブレードが深く入りすぎるのを防ぐ方向に働き、深く刺さった ブレードが抜けなくなるミス(腹切り)や体勢の崩れを起こしにくく します。大きめの設定は、好みではなく、安定と怪我の予防の ための選択とされています。

漕ぎが安定してきたら、経験者向けのレンジへ少しずつ下げていくのが 目安です。中間の段階では、経験者レンジの中でも大きめ側に寄せて おくのが安全側の選び方とされています。

ひとつ添えておくと、この数字は身長・体重や経験レベルだけで一点に 決まるものではありません。艇や体格、クルー、指導方針によって調整 される出発点です。実際に乗って、指導者や経験者と相談しながら 微調整してください。

シャフトの硬さは、体を守る設定

オールのシャフトには、しなりの度合いによってSoft(柔らかめ)・ Medium(中間)・Stiff(硬め)といった区分があります。硬いほど しなりが少なく、かけた力がそのまま伝わる感触になります。

リギングをF1にたとえる説明があります。漕手が高出力のエンジン、 ブレードがタイヤ、そしてハンドルからクラッチ(オールを受ける、 口の開いた留め具)までが、エンジンの力をタイヤへ伝える駆動系。 この駆動系は、漕手の体でいえば関節と同じ役割を果たします。関節に 適度な遊びがあることで体が守られるように、シャフトのしなりにも、 力の伝わり方をなめらかにする働きがあります。

硬すぎるシャフトは、特にビッグブレード(面積の大きいブレード形状) との組み合わせで、肋骨の疲労骨折(繰り返しの負荷で骨に生じる小さな骨折)などのリスクと関連づけて 語られることがあります。シャフト硬度は、怪我の予防に関わる設定です。経験ごとの目安は次のとおりです。

初心者
Soft柔らかめ
中級者
Medium中間
経験者・トップレベル
Stiff硬め
艇・体格・クルー・指導方針で調整される目安。Stiffは経験者・トップレベルの出力域向けとされ、迷う場合は柔らかめ側から試すのが安全側とされています。

初心者にはSoftが推奨されます。まず柔らかいシャフトで漕ぎに慣れ、 出力と経験が積み上がってからMedium、さらにその先でStiffを検討する、 という順番です。

柔らかいオールは、初心者向けの妥協ではありません。体を守りながら 上達するための、正しい装備です。

注意したいのは、部活の道具は「借りる」「引き継ぐ」ことが多い、 という現実です。手元に来たオールが自分に合った硬さとは限りません。

ピッチを自分で測ってみる

自分の艇のピッチは、自分で測って確かめられます。手軽なのは ピッチゲージ(角度を測る専用の道具)で測る方法ですが、ゲージがなくても、 糸とメジャーで測る手順が国際連盟の指導者向け資料で紹介されています。 細かい手順は折りたたみに入れておくので、興味が出たら開いてみてください。

次の練習で確かめる一歩

次に艇庫へ行ったら、いま使っているオールの硬さがどの区分なのかを 確かめてみましょう。メーカーによってはシャフトに表記があります。 見つからなければ、指導者や先輩に聞けば十分です。自分の道具の硬さを 知ることが、体を守るリギングの最初の一歩になります。