こぎだし

RACE

艇の重さ — レースが終わってから、量られる

フィニッシュを過ぎて、力が抜けて、ポンツーンに戻る。そこで名前を呼ばれることがあります。艇計量です。艇の重さは、レースが終わってから量られる。この順番だけ先に知っておけば、当日あわてずに済みます。

読了目安7分レベル基礎公開日2026.07.15
レース後の計量場で、台はかりの上に受け台で支えられたシングルスカルの船体が1艇載っている。台の端には目盛りだけの丸い計量ゲージが立ち、床の脇には平たいおもりの板が数枚重ねて置かれている。

艇計量(レースで使った艇の重さを量ること)で、最初に驚くのはここです。艇の計量は、レースが終わってから行われます。出艇前ではありません。漕ぎ終えて、息が整いはじめたころに、艇はまだ競技の中にいます。

対象になるのは、その大会の全艇のこともあれば、審判長(その大会の審判のトップ)が 抽出した艇だけのこともあります。つまり「うちは呼ばれないだろう」という予測は、 そもそも成り立ちません。呼ばれてから用意を始めるのでは遅い、という話でもあります。

以下は、2024年4月版の競漕規則・細則をもとに整理したものです。規則は改定されますし、 大会ごとに緩和や適用除外もあります。数値も手順も、最後は大会要項と審判の判断が正になります。

レースが終わってから、名前を呼ばれる

艇計量は、指定された場所の計量器で、レース終了後に行われます。ここを取り違えると、 当日の段取りが丸ごとずれます。というのも、大会にはもう一種類、人の計量が あるからです。舵手(コックス)の体重や、軽量級の漕手の体重を量るあれは、レースの前に行われます。同じ「計量」という言葉で、まったく違う時間帯を指しています。

覚え方は単純です。人は、漕ぐ前に量る。艇は、漕いだ後に量る。この一行を持っておくだけで、当日の混乱がひとつ減ります。

何キロ以上あればいいのか

艇には、艇種ごとに最小重量が決められています。下の目安は、そのうち代表的なものです。 自分の艇種の数値は、必ず大会要項と規則で確認してください。

シングルスカル(1x)
14kg 以上
ダブルスカル(2x)・ペア(2-)
27kg 以上
フォア(4-)
50kg 以上
エイト(8+)
96kg 以上
2024年4月版の競漕規則・細則が定める最小重量のうち、代表的な4つだけを挙げています。ここに出していない艇種(舵手つきの艇、クォドルプルなど)にも、それぞれ最小重量が定められています。反対に、ナックルフォアのように最小重量の定めがない艇もあります。規則は改定されます。自分の艇種の数値は、その大会の要項と最新の規則で確認してください。

最小重量に届かない艇も、おもり(バラスト)を積んで固定し、最小重量を満たせば出漕できます。ただし、おもりには条件があります。レース中に重量が変化しない材質の固体であること。つまり、水はおもりに使えません。走っているうちに漏れたり蒸発したりして重さが 変わるものは、下限を満たしたことになりません。積んだら、艇に固定します。

計量で、何が含まれ、何を取り除くのか

艇の重さに含まれるのは、その艇を使うために要る装備です。シート、リガー(オールを支える、艇の外へ 張り出した骨組み)、クラッチ(オールを受ける回転部分)、ストレッチャー(足を乗せる台)、 シューズ、シート延長レール(シートが走るレールを艇の外へ延ばす部品)。艇に固定された 電子機器とその配線、シートに固着して簡単には外せないパッドも、艇の重さのうちです。 これらは外しません。外す必要もありません。

反対に、取り除くのは、艇に固定されていないものです。艇内に残った水、転がっている工具やボルト、布、 スポンジ、時計、そしてペットボトル。オールとバウナンバー(艇首につける番号標)も、艇の重さに含めません。

そのうえで、覚えておきたい一点があります。船体の表面に自然についている水は、取り除かなくてよい。漕いだ艇が濡れているのは当たり前で、規則はそれを織り込んでいます。計量前に船体を 拭き上げる必要はありません。取り除くのは、あくまで艇の中に溜まった水のほうです。

  1. 艇の中に溜まった水を抜く
    船底に残った水は、そのまま重さとして乗ってきます。艇内の残留水は、計量の前に取り除きます。
  2. 固定していないものを、すべて艇から出す
    工具、ボルト、布、スポンジ、時計、ペットボトル。艇に固定されていないものは、艇の重さに数えません。
  3. オールとバウナンバーは、艇と一緒に量らない
    どちらも最小重量には含まれません。艇そのものの重さを量ります。
  4. 船体の表面についた水は、そのままにしておく
    拭き上げなくてよい、と規則が認めています。急いで布を探しに走る必要はありません。
  5. 迷ったら、手を動かす前に役員に確認する
    自分の判断で艇に手を加えない。艇の重量を変える行為は、それ自体が処分の対象になります(2024年4月版)。取り除くのか、そのままなのか、わからなければ聞いてください。

計量器そのものにも決まりがあります。表示は0.1kg単位。小数第2位まで出る計量器では、 第2位を切り上げて扱います。

計量器の表示
0.1kg 単位
小数第2位が出たとき
切り上げ
2024年4月版の競漕規則・細則が定める扱いです。切り上げということは、記録される重量は実測より大きい側に寄ります。最小重量を「上回らなければならない」艇にとっては、有利に働く方向の処理です。ただし、それを当てにして下限ぎりぎりを狙う理由にはなりません。計量器の実際の運用は大会によって異なることがあります。

足りなかったら、どうなるのか

最小重量に満たなかった艇は、BUW(Boat Under Weight/艇重量不足)として記録されます。処分は、そのレースの最下位。ゴールで何位に入っていたかは関係ありません。結果表には BUW と残ります。

同じレースで複数の艇が重量不足だった場合は、その中で順位がつきます。不足量が少ないほうが上位です。より下限に近かった艇が、上に来ます。

同じ種目の以後のラウンド(予選・準決勝・決勝といった、レースの段階)で、 再び重量不足の艇で出漕した場合は、失格の対象になります(2024年4月版)。一度目は最下位、二度目は失格。二度目はない、と思っておくのが正確です。

計量そのものへの向き合い方も、規則の対象です。艇計量を指示されたクルーが、計量を拒否した場合、あるいは艇の重量を変える行為をした場合、それらは BUW として扱われます。大会が個別に定めた禁止事項を行った場合も同じです。 さらに、艇計量に関する違反が組織的なものであったときは、所属団体そのものの失格(排除)、つまり同じ団体の全クルーが出漕できなくなる処分の対象にもなり得ます。一艇の話で 済まなくなります。

規則が決めているのは、重さの下限だけです。上限はありません。迷ったら、重い側に倒しておく。

World Rowing ではどうか

国際規則(World Rowing Rules of Racing、2025年3月版)の艇重量の項を読むと、 国内の規則との距離がはっきりします。結論から言えば、ほとんど同じです。

数値は、そろっている

国際規則が定める最小重量は、共通する艇種について国内と同じ数値です。シングルスカル、 ダブルスカル、ペア、舵手つきペア、クォドルプル、フォア、舵手つきフォア、エイト。 どれも一致します。数値がぶつかる艇種は、ひとつもありません。違いは、表に「ある行」と 「ない行」のほうに出ます。国際規則の表にはパラローイングの艇種の行があり、国内の表には ナックルフォア(World Rowing の規則には艇種として存在しない、日本国内専用の艇)の行が あります。もう一つ、舵手つきクォドルプル(4x+)は、国際規則も艇種としては認めているのに 最小重量の表には行がなく、国内だけがここに53kgを与えています。数値が食い違うのではなく、 どの艇に数値を与えるかの範囲が、それぞれの現場に合わせて違っている、と読むのが正確です。

量るのは、やはりレースの後

国際規則でも、艇計量はレースが終わってから行われます。対象艇の選び方は、より具体的に 書かれています。審判長にあたる役員が、各レースセッションの始まる前に、無作為の抽選で対象艇を決める。抽選の結果は、クルーに通知されるまで伏せられます。

通知は、レースを終えて水から上がるところで届きます。役員が計量器まで同行し、クルーは 艇をまっすぐ計量器へ運ばなければなりません。寄り道をしたクルーは、除外(EXC。その種目の 以後の全ラウンドに出漕できなくなる処分)の対象になります。そして通知を受けた後は、いかなるおもりも艇に足せません。

船体の水も、同じ扱い

国際規則も、通常どおり濡れている船体表面はそのまま認めています。拭き上げは不要。 ただし溜まり水は取り除く。ここも同じです。国際規則がおもしろいのは、その水がどこに溜まるかまで書いているところです。船体の肩の部分、そしてバウとスターンのカンバス(艇首と艇尾を 覆う布)の内側。艇の形は日本でも同じですから、探す場所も同じになります。

おもりは同じ。ただし材質の指定は、国内のほうが具体的

国際規則も、最小重量を満たすために足したおもりは、艇または必須の装備にしっかり固定 しなければならない、と定めています。ここは国内と同じです。一方で、 「レース中に重量が変化しない材質の固体」という材質の指定は、国内の規則にあるものです。国際規則の艇重量の項に、材質についての定めは 見つけられませんでした。あるはずだと決めつけずに、そう書いておきます。

電子機器は、国際だと「差し引く」

もう一つ、考え方が分かれるのが電子機器の扱いです。国内の規則は、艇に固定された 電子機器とその配線を、艇の重さに含めます(外さない)。国際規則は逆で、計量の前に取り外す機器(ロガーやモニター、艇速センサー、 送信機など)を定めたうえで、固定したまま残す機器については、艇種ごとに決めた控除重量を 計測値から差し引きます(無線か有線かでも控除量が変わります)。機器の重さが下限の判定に 影響しないよう、国際規則は計量から機器の分を抜く仕組みを持っていて、国内の「含める」とは 向きが逆です。国内の規則に、この控除表にあたる定めは見当たりません。

処分は、ひとつだけ重さが違う

BUW がそのレースの最下位になること、複数の艇が不足したときに不足の少ないほうが上位に 来ること。ここまでは同じです。違うのは、同じ種目の以後のラウンドで、また重量不足の 艇で出漕したときの処分の名前と、届く範囲です。国際規則が置いているのは除外。その種目の以後の全ラウンドに出漕できなくなります。 国内の規則が同じ場面に置いているのは失格。こちらは、その大会の全種目に出漕できなくなります。国内2024年4月版と国際2025年3月版を比べると、そう読めます。 どちらにしても、二度目はありません。

そのうえで、責任はクルーにある

国際規則は、この点を一行で言い切っています。艇が最小重量を満たしているかどうかは、 クルーの責任である、と。借りた艇でも、学校の艇でも、艇庫を出る前に誰かが見たはずの 艇でも、水に浮かべて漕いだその艇の重さは、乗ったクルーの責任として扱われます。

レース前に、自分たちで測っておける

ここまで読んで、いちばん気が重くなるのは「レースが終わるまで結果がわからない」という 点かもしれません。ただ、手はあります。艇の事前計量です。出漕予定のクルーが、自分の判断と責任で行う、非公式の艇計量。大会側が用意した 計量器を使って、指定された時間内なら試しに測れます。回数の制限はありません。

回数に制限がないということは、「先に測っておく」ことを規則が想定しているということでもあります。本番を待たずに、いまの艇が下限に対してどのくらいの位置にいるかを、 自分たちの手で確かめておけます。

艇の事前計量の回数(国内規則)
制限なし
2024年4月版の国内規則によります。艇の事前計量は、出漕予定のクルーが自分の判断と責任で行う非公式の計量で、大会側が用意した計量器を使い、指定された時間内なら回数の制限はありません。実際に使える時間帯・場所・可否は大会によって異なります。要項と当日の案内で確認してください。

レースが終わってから「足りませんでした」と言われるのが、いちばん痛い。順位も、 そこまでの一本一本も、後から取り返せません。艇庫から艇を出す前に一度、 当日の朝にもう一度。測れるときに測っておいてください。