計量(体重を公式に測ってもらうこと)には、2種類あります。 舵手(コックス。艇に乗って舵を取り、クルーに声をかける役割)の計量と、 軽量級(体重の上限が決められた種目区分)の漕手の計量です。 どちらも当日、決められた1時間の中で受けます。そして、この2つは目的が正反対です。舵手は「軽すぎないこと」を、軽量級の漕手は「重すぎないこと」を確かめられます。
以下は、2024年4月版の競漕規則・細則を読んで、条文の順ではなく 当日の行動の順に組み直したものです。数値もすべて同じ版のものです。
まず、時間の窓を押さえる
計量を受けられるのは、発艇定刻(レースがスタートする予定の時刻)から数えて、 2時間前から1時間前までの間だけです。1時間しかありません。早すぎても受けられず、 遅すぎても受けられません。
基準になるレースを間違えないでください。「その日の第1レース」ではなく、「自分たちが、その日・その種目で最初に出るレース」です。同じ日に2つの種目に出るなら、種目ごとに計量があります。
定められた時間内に計量を受けなかったクルーは、失格の対象になります(2024年4月版)。この「失格」は軽くありません。規則は失格を、その種目に出られなく なるだけでなく、その大会の全種目に出られなくなる処分として定義しています。 計量の時刻は、当日いちばん先に紙に書き出しておくべき数字です。
舵手 — 借りたおもりを、積んで出る
舵手には最低体重があります。基準になるのは種目のほうで、舵手本人の性別は問われません(2024年4月版。性別を問う場合は 大会要項に定める、とされています)。ですから男子種目の舵手は、誰が乗っても 男子種目の数字を満たす必要があります。男女混合(MIX)の種目も、男子種目の 規定によります。
体重が足りないときは、デッドウェイト(不足分を補うために艇に積むおもり)を使います。 監視員(出艇前にクルーと艇を確認する審判員)から貸してもらい、艇の中の、舵手にもっとも近い場所に置きます。借りられるのは、上の目安のとおり最大15kgまでです。
デッドウェイトを積まないまま出漕すると、 レッドカード(除外)の対象になります(2024年4月版)。除外されたクルーは、以降その 大会のその種目の全ラウンド(予選・準決勝・決勝といったレースの段階)に出漕できず、 順位もつきません。計量に通っていても、おもりが艇に載っていなければ意味がない、ということです。
参加できない下限がある
デッドウェイトは「いくらでも積めるおもり」ではありません。規則は、そもそも大会に 参加できない体重の下限を定めています。
数字は、ちょうど噛み合っています。男子は40kgに15kgを足すと55kg。女子は35kgに15kgを 足すと50kg。つまりこの下限は、「上限いっぱいのおもりを積んでも、最低体重に届かない体重」のことです。デッドウェイトの15kgという上限は、ここで効いています。
軽量級 — 平均と個人、その両方を同時に
軽量級は向きが逆で、上限を超えていないことを確かめます。シングルスカル (1人で2本のオールを漕ぐ艇)だけは個人の上限だけを見ますが、それ以外の種目では、 クルーの平均と個人の上限を両方とも満たす必要があります。 クルー平均に舵手の体重は入りません。漕手だけで平均します。
女子も作りは同じです。数字だけが違います。
計量は、クルー全員がそろって同時に受けます。一人だけ先に済ませておく、という受け方は できません。そして舵手と同じく、定められた時間内に計量を受けなかったクルーは、 失格の対象になります(2024年4月版)。
舵手と軽量級は、逆向きに作られている
同じ「計量」という言葉を使っていても、舵手と軽量級では、 規則の作りが逆を向いています。当日になって初めて知る人が多いところなので、 先に見てしまいましょう。
| 見るところ | 舵手 | 軽量級の漕手 |
|---|---|---|
| 満たすもの | 最低体重。下回れない | 上限体重。超えられない |
| 端数の丸め方 | 切り上げ | 切り下げ |
| 時間内の公式計量 | 1回限り | 何度でも |
| 届かなかったとき | デッドウェイトを借りて、艇に積む | 時間内なら、落として測り直せる |
| 計量時の服装 | レース時のユニフォーム | 最低限ユニフォーム。上に着てもよい |
いちばん効いてくるのは、真ん中の行です。数字にすると、こうなります。
軽量級の漕手は、1回目で上限を超えていても、時間内であれば何度でも公式計量を 受け直せます。だから当日、体を動かして落としてから、もう一度計量所に戻ってくる 光景が生まれます。舵手は違います。規定の時間内に受けられる公式計量は 1回限り。一発勝負です。
端数の話も、よく誤解されます。「舵手だけ切り上げられて損をする」と思われがちですが、 逆です。舵手は最低体重に届きたい側なので、重いほうへ寄せる切り上げは有利に働きます。軽量級は上限を守りたい側なので、軽いほうへ寄せる切り下げが有利に働きます。 向きが逆なのは、目的が逆だからです。どちらも競技者に有利な側へ丸めている、 という点では同じ設計です。
「測った」は、3種類ある
現場でいちばん多い行き違いが、これです。「もう測った」と言うとき、その「測った」が 何なのかを、規則は3つに分けています。
- 事前計量。大会が用意した計量器で、自分の判断と責任で試しに測ること。 回数の制限はありません。指定された時間内なら、大会中の空き時間にもできます。 艇についても同じように、自分の責任で試しに測る事前計量があります。
- 予備計量。公式計量の前に、公式に用意された計量器で受ける計量。原則1回です。
- 公式計量。ここまで書いてきた本番で、2時間前から1時間前までのものです。
「昨日の夜、風呂上がりに測ったら足りていた」は、この3つのどれでもありません。当日、 ユニフォームで、大会の計量器で測った数字だけが、当日の自分の数字です。とくに舵手は 公式計量が1回限りですから、事前計量で自分の数字を先に知っておく価値が高い。 借りるおもりが何kg必要なのかも、そこで分かります。
計量で失格になる人は、体重で失敗しているのではありません。時計と段取りで失敗して います。そこは、今日から直せます。
当日、順番にやること
順番に置きます。細かい運用は大会ごとに違いますから、最後は必ず大会要項 (その大会のルールと進行を定めた公式の案内)と、その場の審判員の指示に合わせてください。
- 前日までに、要項で計量の場所と時刻を確かめる規則が定めているのは原則です。実際の時刻・場所・受付の方法は、大会要項と代表者会議での決定が優先します。
- 自分たちの「最初のレース」の発艇定刻を書き出すその日・その種目で最初に出るレースが基準です。そこから2時間前と1時間前を計算して、紙に書いておきます。
- 事前計量で、自分の数字を知っておく大会の計量器で、試しに測っておきます。回数の制限はありません。舵手は公式計量が1回限りなので、ここで知っておく意味がとくに大きい。
- レース時のユニフォームで、計量所へ行く舵手はレース時のユニフォームで。軽量級は最低限ユニフォームで、その上に何を着ていてもかまいません(脱げばよいので、損をするのは本人だけです)。舵手計量所での飲食は禁止されています。
- 公式計量を受ける軽量級はクルー全員がそろって同時に。舵手は1回限りです。眼鏡・包帯・ヒジャブなど、身体の機能を補うものや宗教上欠かせないパーソナルアイテムは、計量のときも身につけていることが認められています。
- 足りなければ、おもりを借りる(舵手)/落として測り直す(軽量級)舵手は監視員からデッドウェイトを借ります。軽量級は、時間内であれば何度でも公式計量を受け直せます。
- 出艇の前に、おもりが艇の中にあるか声に出して確かめる(舵手)艇の中の、舵手にもっとも近い場所に置きます。携行しないまま出漕すると、レッドカード(除外)の対象になります。
- 最終レースのあと、デッドウェイトを返す(舵手)当日の自分の最終レースが終わったら、速やかに舵手計量所へ返します。
World Rowing ではどうか
国際規則(World Rowing Rules of Racing)と読み比べてみます。使ったのは2025年3月版です。 結論から言うと、ほとんど同じでした。ただし、舵手の最低体重だけが違います。
同じなのは、まず時間の窓です。国際規則も、その日・その種目で最初に出るレースを基準に、 2時間前から1時間前までの間に計量すると定めています。軽量級の数字も同じでした。男子は 個人72.5kg以下・クルー平均70kg以下、女子は個人59kg以下・クルー平均57kg以下。平均から 舵手を除くことも、クルーがそろって計量を受けることも、時間内なら何度でも測り直せることも、 同じです。デッドウェイトの上限15kgと、「艇内の、舵手にもっとも近い場所に置く」という 置き方も同じでした。国内規則が国際規則とよく揃っている、ということです。
違いはここです。国際規則の舵手の最低体重は、種目が男子でも女子でも55.0kgの一本です。国内のように種目で分かれてはいません。国内の女子種目で舵手をしてきた人が、 その感覚のまま国際大会に出ると、5kg足りない計算になります。
逆に、国内規則にあって国際規則には見つけられなかったものもあります。ひとつは、 端数をどちらに丸めるかの定めです。国際規則が書いているのは「計量器は0.1kg単位で 表示する」ところまでで、切り上げ・切り下げの向きは見当たりませんでした。もうひとつは、 舵手の公式計量を1回限りとする定めです。国際規則が回数をはっきり書いているのは、 軽量級の「時間内なら何度でも」のほうでした。そしてもうひとつ、「何kg未満は参加できない」 という下限の条文も見つけられませんでした。ただし、55.0kgの最低体重と15.0kgのおもりの 上限を並べれば、40.0kgという線は自動的に出てきます。国内規則は、その線を 「参加できない下限」として条文にした、と読むことができます。
細かいところにも、よくできた一致があります。国際規則は、舵手について 「レース用ユニフォームだけを着て」計量すると書き、軽量級については 「少なくともレース用ユニフォームを着て」と書いています。国内規則とまったく同じ 考え方です。重くなりたい舵手には、服を足させない。軽くなりたい漕手には、服を足すのを 許す。方向が逆だから、服の扱いも逆になっています。
デッドウェイトには、国内だけの仕組みもあります。おもりの上限15kgも、艇内の舵手に もっとも近い場所へ置くという置き方も国際規則と同じですが、そのおもりを監視員から借り、当日の自分の最終レースのあとに返すという「貸して、返す」運用は、国内規則の側にだけ書かれていました。国際規則には、 この貸与と返却の定めは見つけられませんでした。借りて積むだけでなく、返すところまでが 一続きだ、というのは国内に固有の段取りです。
自分が出る大会がどちらの規則のもとで行われるのかは、大会要項に書かれています。 数字を覚えるより先に、そこを見てください。
