こぎだし

COACH

90分練習を組み立てる — 枠を持てば、中身は借りられる

練習メニューをゼロから発明する必要はありません。90分をどう割るかという枠を決めれば、中身は選手と経験者の知恵を借りられます。

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クリーム色の紙にネイビーの線画で描いた、顧問が90分練習を回すための道具の静物。アナログのストップウォッチ、罫線だけを引いた空白の練習メニュー用クリップボード、紐のついた合図用のホイッスルが机の上に並ぶ。

練習の骨組みは、どの部活も同じ

ボートの練習は特別なものに見えますが、骨組みはほかの部活動と変わりません。 準備して、練習して、片づけて振り返る。この三つの箱を90分の中に置くだけで、 練習は形になります。

練習の三つの箱
  1. 準備と説明で始める道具の準備と「今日やること」の共有。ここは漕げなくても仕切れます。
  2. 主練習をまんなかに中身は選手と経験者の知恵を借りてよい部分です。
  3. 片づけと振り返りで閉じる記録を残すことは、漕げない顧問の強みになります。

箱の並びは毎回同じで、変わるのはまんなかの中身だけです。

90分の時間割を、一例から

枠のイメージをつかむために、時間割の一例を置きます。あくまで一例です。 艇を水に出す日は前後の準備と片づけがさらに膨らみますし、 日没や川までの移動時間でも大きく変わります。

  • 0:00-0:15 集合・道具の準備・今日やることの説明
  • 0:15-0:30 ウォーミングアップ(体を温める運動)
  • 0:30-1:10 主練習
  • 1:10-1:25 片づけ・道具の点検
  • 1:25-1:30 一言ミーティング

まんなかの主練習に何を入れるかは、乗艇実際に艇に乗って水の上で行う練習の日なら経験のあるコーチや卒業生と、陸の日なら選手と相談して決めれば 十分です。同じ中身を数週間続けても構いません。距離や本数の「正解」を 探すより、枠が毎回同じであることのほうが、選手には効きます。

顧問は「見る係」になれる

練習中、経験のある指導者はレート1分間に漕ぐ本数のことや距離といった数字を見ます。でも、数字が読めなくても見えるものが あります。選手の表情、動きの大きさ、練習全体の雰囲気です。

  • 表情 — いつもより口数が少ない、笑わない。そうした変化は、 数字より先に表れます。
  • 動き — 練習の後半、動きが目に見えて小さくなっている選手はいないか。
  • 雰囲気 — 準備や片づけの負担が、特定の選手にばかり寄っていないか。

気づいたことは、その場で正そうとしなくて構いません。まず記録して、 あとで本人に「今日、少し疲れて見えた」と聞いてみる。それだけで、 選手にとって「見てくれている人」になります。

なお、体調や安全にかかわる判断は、この記事の範囲ではありません。 学校・連盟・地域の規定や講習が正式な基準です。ここに書いた「見る」は、 その手前にある日常的な心構えとして読んでください。

ビデオ係になる

「見る係」をもう一歩進めると、「撮る係」になれます。漕げない顧問に できる仕事のなかでも、ビデオ撮影は価値の高いものの一つです。 経験のあるコーチが毎回来られなくても、映像さえ残っていれば、選手は あとから何度でも自分の漕ぎを見返せます。撮り方のこつは、少しだけです。

  • 基本は真横から — 岸と平行に進む艇を、真横(漕手に対して直角の 位置)から撮ります。一人をズームで追うより、艇全体が画面に入ることを優先してください。
  • 数ストローク続けて — 一瞬ではなく、7–10本ほど 連続で撮ると、あとで一本ずつ見比べられます。
  • ときどき真後ろ・真正面 — 左右の傾きや、ブレード(オールの水を かく部分)の高さの左右差は、艇の進む線の上から見るとよく分かります。
  • 逆光を避ける — 太陽を背にして撮ると、体とブレードの輪郭が はっきり写ります。

見るときは欲張らず、次の三つだけを順に確かめます。スマートフォンのスロー再生 (コマ送り)が使えると、さらに見やすくなります。

順に、この三つだけ
  1. 1タイミング全員のブレードが同じ瞬間に水へ入り、同じ瞬間に出ているか。真横からのスロー再生でズレが見えます。誰が早いか・遅いかまで分かれば十分です。
  2. 2ブレードの高さと深さリカバリー(漕ぎ終えて次の一本へ戻る区間)で、ブレードが水面から一定の高さを保てているか。高く舞い上がっていないか、水中で深く沈みすぎていないか。
  3. 3上体の起き上がり脚が伸び切る前に、背中だけが先に起きていないか。順番の崩れは、真横からの映像でいちばんよく見えます。

映像には、フライアップ(リカバリー中にブレードが高く舞い上がる癖)や シートラッシュ(前へ戻る動きを急ぐ癖)のような名前の付いた癖も 写ります。用語の意味は用語辞典で調べられるので、選手と一緒に映像を見ながら引いてみてください。

役割分担だけは決めておきます。映像から「どう直すか」を診断するのは、 指導者と選手の仕事です。顧問は、あとから見える記録を残すことを受け持ちます。ここでも 「見る係」と同じで、その場で正さなくて構いません。撮ったあとの見方を 深掘りしたい選手には、フォーム動画の見方を渡してください。角度ごとに何が見えるか、静止画に基準線を引いて 確かめる方法までまとめてあります。

なお、動画の保存や共有は、チーム・学校の方針に従ってください。 顔が写る映像は個人情報でもあるので、部外への公開や共有は慎重に。

エルゴメーターの日を組み立てる

雨や増水で水の上に出られない日は、エルゴエルゴメーター=ローイングマシンのことの出番です。エルゴの日は、顧問にとって組み立てやすい日でもあります。 移動がなく、全員が同じ場所にいて、画面に数字が出るからです。

  • 枠は水上の日と同じ。準備と説明、主練習、片づけと振り返り。
  • 中身に迷ったら、エルゴのレート管理入門を選手と一緒に読んで、その日のテーマを一つだけ決めるのがおすすめです。 一緒に読むこと自体が、練習の組み立てになります。
  • 画面の数字は便利ですが、毎回全力を測る場にはしない。表情と動きを 見る係であることは、陸の日も変わりません。

振り返りを、いちばんの仕事にする

90分の最後の5分は、顧問の出番です。 やることは二つ、練習ノートと一言ミーティングです。

  • 練習ノート — 日付・やったこと・気づいたことを一行ずつ。 書くのは顧問でも、当番の選手でも構いません。
  • 一言ミーティング — 一人一言、今日の気づきを話して終わる。長くしない。