こぎだし

TECHNIQUE

フォーム動画の見方 — スマホ1台で、見る目を作る

特別な機材も、解析アプリもいりません。スマホで撮った数本の動画から自分の漕ぎの癖を見つける手順を、撮り方から順番に整理します。

読了目安8分レベル入門公開日2026.07.20
小さな台に横向きに立てたスマートフォン。画面には後方から見たシングルスカルのフォームが一時停止で映り、水面に沿った水平線と艇の中心を通る垂直線が引かれている

艇の上の感覚は、思っているほど当てになりません。米国のローイングメディアが 大学コーチたちに聞いたドリル特集でも、漕手に自分のブレード (オールの先の、水をかく平たい部分)の入水を実際に見させる練習を挙げる コーチがいます。狙いは、思っている動きと実際の動きの差に気づくこと。 動画を使えば、同じことを岸から、何度でもできます。

いまはフォームを自動で解析してくれるアプリもあります。ただ、解析が出す数字や 線を読むにも、結局は自分の目が要ります。この記事で渡したいのは、その手前にある 「見る目」です。スマホが1台あれば始められます。

撮り方は、角度で決まる

どこから撮るかで、見えるものが変わります。目的に合わせて、 三つの角度を使い分けます。

川岸に立つ人がスマートフォンを横向きに構えて、目の前を通るシングルスカルの漕手を真横から撮影している場面
基本は真横から。スマホは横向きに構え、艇と平行に距離を取る。
  • 真横— 岸と平行に進む艇を、漕手に対して直角の位置から撮ります。 キャッチ(ブレードが水に入る瞬間)とフィニッシュ(漕ぎ終わり、 ブレードを水から抜く局面)のタイミング、リカバリー(漕ぎ終えて 次のキャッチへ戻る区間)中のブレードの高さ、体の動く順序。 この記事で見るものの大半は、この角度に写ります。迷ったら真横です。
  • 艇の進む線の上(後方か前方)— 左右の傾きと、ブレードの高さの左右差が見える角度です。 ハンドル(オールの握り)の高さは艇の傾きにそのまま表れるので、 艇がいつも同じ側へ傾くときは、この角度で手元とブレードの左右差を 探します。桟橋や橋の上など、安全に立てる場所があるときに。
  • 斜め— 真横に立てない岸でも撮れる角度です。キャッチの水しぶきと フィニッシュの水面の乱れが一度に見えます。厳密な見比べには 向きませんが、日々の記録には十分です。

距離は、艇の全体が画面に入るまで下がります。一人をズームで追うより、 クルー全員とブレードの先までを一枚に収めたほうが、あとで見比べられる 情報が増えます。そして、数本続けて撮ってください。 1本だけでは、たまたまなのか癖なのかが区別できません。

画質の工夫は二つで足ります。逆光を避けること。太陽を背にして撮ると、 体とブレードの輪郭がはっきり写ります。もう一つは手ブレを減らすこと。 ズームに頼らず近づく、両手で持って脇を締める、柵や台があれば置いて撮る。 あとで止めて見るので、なめらかさより輪郭を優先します。

見る順序は、一度に一つ

撮った動画には、情報が多すぎます。全部を一度に見ようとすると、 何も見つかりません。見る場所を先に一つ決めて、順番に進みます。 次の順序は、外から確かめやすいものを前に置いた、このサイトの整理です。

  1. まず、タイミング
    真横の動画をスロー再生(コマ送り)にして、ブレードが水に入る瞬間と出る瞬間だけを見ます。クルーなら、全員が同じ瞬間に入り、同じ瞬間に出ているか。自分が早いのか遅いのかまで分かれば十分です。一人で漕いでいるなら、入水の前にブレードが引く方向へ動き始めていないか。動き始めていたら、水を掴む前に引いています。
  2. 次に、ブレードの高さ
    リカバリー中、ブレードが水面から一定の高さで運ばれているか。キャッチの直前に高く浮き上がるのはフライアップ(ブレードが水面から高く浮き上がる癖)、逆に水面を擦るのはバランスが崩れているサインです。フィニッシュ側では、白い水しぶきが立っていないか、ブレードが立ったまま抜けずに斜めのまま出てきていないかを見ます。
  3. 最後に、体の順序
    ドライブ(ブレードが水中にあり、押している局面)の始めで、肩が脚より先に起き上がっていないか。シート(座席)だけがハンドルより速く走っていないか。これは尻逃げ(脚の押しが上体に伝わらず、シートだけが先に滑る癖)のサインです。リカバリーでは、キャッチへ向かって体が加速していないか(シートラッシュ=前へ戻る動きを急ぐ癖)。順序の崩れは、真横のスロー再生でいちばんよく見えます。

一度の再生で見るのは、この三つのうち一つだけです。タイミングが揃ってきたら 高さへ、高さが安定したら順序へ、と一段ずつ進みます。

静止画にして、線を引く

動画を流して見ているだけだと、目は動きに引っ張られます。 見きわめたい瞬間で止めてスクリーンショットを残し、そこに線を引いて みてください。スマホに入っている画像への書き込み機能で足ります。

  • 水面の線— 写っている水面に沿って、横に一本。リカバリー中のブレードの高さを 測る基準になります。数本ぶんの静止画に同じ線を引いて並べると、 どこで浮き上がるのかが場所として見えてきます。
  • シートの線— フォワードエンド(シートがいちばん前まで来た位置)とフィニッシュ、 それぞれの静止画でシートの位置に縦の線。毎本、同じ範囲を使えているか、 引きが短くなっていないかを、線の間隔で確かめられます。
  • 体の線— 腰から肩へ一本。キャッチの前傾と、フィニッシュのレイバック (上体を後ろへ倒した角度)を、本ごと・人ごとに比べられます。

線を引いた静止画は、並べてこそ働きます。今日の自分と先週の自分、 ドリルの前と後のように、同じ局面で止めた2枚を横に置くと、 目の記憶に頼らずに変化を確かめられます。

癖に気づいたら、名前で引く

動画に写る癖の多くには、名前が付いています。フライアップ、尻逃げ、 シートラッシュ。名前が分かると、そこから先を自分で調べられるように なります。分からない言葉は用語辞典で引いてください。

見つけた症状の先は、症状から引く逆引き技術辞典に用意してあります。「キャッチで水しぶきが上がる」「シートだけが先に走る」 といった見え方を入り口に、原因の候補と、直すためのドリルへたどれます。 動画の仕事は、どの症状が出ているかをはっきりさせるところまでです。 症状と原因は一対一ではないので、原因の切り分けは、逆引き辞典の 「確かめ方」と指導者の目を合わせて進めてください。

チームでの回し方

撮る係を一人決めれば、この仕組みは回り始めます。漕がない人なら誰でも 務まります。顧問の先生、マネージャー、その日陸にいる選手。当番で回しても 構いません。撮る係の始め方は、指導ガイドの90分練習を組み立てるにもまとめてあります。

見るほうは、「見る会」を短く開くのがおすすめです。練習後に数分、 その日の動画から一人一箇所だけ。再生の前に「今日はブレードの高さだけ見る」 と宣言してから流すと、批評会になりません。見つけるのは癖であって、 人の欠点ではない。この線引きだけは、最初にクルーで共有しておいてください。

うまい人の動画と並べる見方も効きます。同じ局面で止めた静止画を横に置き、 同じ線を引いて比べます。見るのは、動きの順序とタイミングです。体格や艇が 違えば、前傾の深さや角度はそのまま重なりません。形を写すより、 「何が先に動いているか」を読み取るほうが、自分の漕ぎに持ち帰れます。

動画は、残る記録

最後に、扱いの話をひとつ。フォーム動画は便利な道具であると同時に、 顔の写った、消えずに残る記録でもあります。

方針さえ決まっていれば、動画は安心して撮りためられます。 撮りためた動画は、そのままクルーの成長の記録になります。

まずは次の練習で、真横から数本。見る目づくりは、そこから始まります。