COACH
選手への声かけを変える — 教えられなくても、練習の質は変えられる
技術は教えられなくても、練習後の一言は毎日かけられます。漕げない顧問だからこそできる問いかけ方と、明日からそのまま使える言い換え例をまとめました。
・ 読了目安 5分
まず、声かけの3原則
何と言えばいいか迷ったら、この3つに立ち返ってください。 どれもボートに限らない、人と向き合うときの原則です。
「教える」から「聞く」へ
競技経験のある指導者は、選手の動きを見た瞬間に答えを言いたくなります。 それが早道のこともありますが、選手が自分の頭で考える機会を 奪ってしまうこともあります。
漕げない顧問は、答えを持っていません。だからこそ「今のはどうだった?」と 純粋に聞けます。選手は問われて初めて、自分の一漕ぎを思い出し、 言葉にしようとします。この「自分の動きを言葉にする」過程そのものが、 上達の一部です。
言い換えの実例
原則だけでは使いにくいので、よくある声かけの言い換えを並べます。 左が閉じた声かけ、右が選手の言葉を引き出す問いかけです。
- 「もっと頑張れ」→「今の一本、どこがいちばんきつかった?」
激励は評価、問いかけは観察です。きつさの場所を言葉にできれば、 次に直す場所も見えてきます。 - 「フォームが乱れてるぞ」→「今の10本で、いちばん手応えがあったのはどれ?」
悪い一本を指摘する代わりに、うまくいった一本を探してもらいます。 良い動きを自分で見つけて再現することが、練習の近道です。 - 「あのクルーはもっと速いぞ」→「先週の自分と比べて、何か変わった?」
比較の相手を、他のクルー(同じ艇に乗るメンバーのひとまとまり)から 過去の本人に変えます。 伸びを実感できる比べ方のほうが、次の練習につながります。 - 「なんでできないんだ」→「何があればできそう?」
原因の追及は過去に向かい、問いかけは次の一手に向かいます。
技術の話になったら
問いかけを続けると、選手のほうから 「キャッチ(オールの先の平たい部分を水に入れる瞬間)がうまく決まらない」のような技術の相談が返ってくるようになります。 ここで無理に答えをつくる必要はありません。「そこはわからない」と 正直に言ってよい場面です。
その上で、できることが3つあります。ひとつは、このサイトの技術記事を 選手と一緒に読むこと。同じ画面を見ながら「これ、今日の練習で言っていたこと?」と 問いかければ、記事が会話の材料になります。ふたつめは、卒業生など 聞ける経験者を探しておくこと。みっつめは、公開されている国際大会の映像を 選手と一緒に見て、「自分たちと何が違うと思う?」と聞いてみることです。
気持ちが沈んでいる選手には
レースで負けた日、練習がうまくいかない時期。そういうときの声かけは、 問いかけより「聞き切ること」が先です。途中で助言を挟まない。 感じ方を否定しない。解決を急がない。隣にいて聞く時間そのものが、 いちばんの声かけになることがあります。
ただし、この記事で扱えるのは日常の関わりまでです。眠れない・食欲がない といった変化が続くなど、心配な様子が見えるときは、一人で抱え込まず、 養護教諭やスクールカウンセラーなどの専門職につなぐことが顧問の大切な 役割です。対応の正式な基準は学校の規定や手順であり、この記事は あくまで一般的な心構えとして読んでください。
